ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2006年07月06日
 さんさん録 2 (2)

 こうの史代『さんさん録』の良さというのを、簡単にいうのであれば、登場人物たちが、物語のなかで、なにか大げさなドラマを演技しているのではなくて、ごく自然に、そこで文字通り、生きている、そう感じられるところにあるのだと思う。日々を積み重ねてゆく最中にある、いっときの風景が、ユーモアをまじえられることで、やわらかくたのしく取り出されている。「あとがき」には、〈今まで商業誌で発表した中で、やっぱり一番自信のない作品です〉とあるが、そこからはむしろ、作者の志の高さをこそ見てとるべきであろう。いちおうこの巻で完結となっているけれども、こちら読み手が覗ける、わずか2巻分の長さの向こうではまだ、登場人物たちの暮らしが続いていることを信じられるような、豊潤な味わいがある。個人的に目がいくのは、やはり参平と仙川さんの、ちょっと気になる関係だったりする。ふたりの微妙な距離のとり方に、はにかむ。その一方で、すこし考えさせられるのは、たとえば次のようなことだ。最終話に付せられた題は「見てると思わなきゃいいのよ」である。これはおそらく、参平の亡くなった妻である鶴子が、作外から発している言葉だと捉まえるべきで、作内において仙川さんが参平に言う〈いつまで見てんのよ〉という台詞と対になると同時に、参平が空に向かって、つまり作外に呟くかっこうになっている〈こんな時までにこにこ見てるやつがあるか〉といった言葉に、受け答えするものになっている。また第31話「春風」で、仙川さんが〈ばかな参平さん 鶴子さんがいつもあなただけについててくれると思うの〉と口にするのも、遡って印象的に感じられた。他者の視線を意識するというのは、その他者を、ある特別なものとして見ているということでもある。彼や彼女たちは、自分が見られているという感触によって、そこにいる人やいた人の尊さを、密やかに確かめ合う。

 1巻について→こちら

 『夕凪の街 桜の国』について→こちら
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ(06年)
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