ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2011年05月18日
 メルカトルかく語りき (講談社ノベルス)

 さすがはメルカトル鮎であって、常人には及びもつかないことを易々とやってのけるわけだ。あるいはこう言い換えてもいい。さすがは麻耶雄嵩、それをやったらお終いだよ以上のことを平然とやりおおせてしまうのだった。感動も感嘆もいっさいない世界がいかにひどいものであるかを覗き見せられることにもう、にやにや、とするよりほかない。『メルカトルかく語りき』は、名探偵ならぬ銘探偵のメルカトル鮎と推理小説家の美袋三条がコンビを組み、数々のミステリに挑んでいくシリーズの、最新の事件簿にあたる。無論、それは次のようにも言い換えられるだろう。『メルカトルかく語りき』は、美袋という常人がメルカトルという奇人に振り回されながら散々な目に遭わさてしまう、その記録の最新ヴァージョンである。この短編集において、おそらくは唯一、『メルカトルかく語りき』なる題名だけが出鱈目ではない。つまり、聞き手であるところの美袋に対して語り手であるところのメルカトルの圧倒的な優位が、次々と明るみに出される。そして、美袋とメルカトルの対照は、正しく読み手と作者の関係に置き換えられる。実際、多くのパートで語り手の役割をつとめているのは美袋なのだったが、それはあくまでも主観を負わされているにすぎず、眼前の物語に対して圧倒的に不利な立場にしか回れない、という意味で、美袋と読み手は、等しく、無力さを舐めるばかり。収められている五篇のうち、「死人を起こす」と「九州旅行」、「収束」の三つは初出の段階で目を通していたのだけれど、あらためて読み返してみても、生真面目にトリックを見破ろうとすれば結末を恨みたくなるような仕掛けを徹底している。しかしまあ、そこが痛快でもあり、最大の魅力でもあるのだから、なんて迷惑な話なんだか。こう思わされるなかでも、とくに好きなのは「収束」である。少しほど『夏と冬の奏鳴曲』を彷彿とさせるシチュエーションを用意しながら、すべてがせこく小さな動機に陥っていき、合理的に不条理を迎える物語は、完全にネジの一つや二つ、外れている。もしかしたら最初からネジなんて締められていないのかもしれない。いや、それならまだまし。じつは穴なんかどこにもないのに無理やりネジを締めなければならない、と作者の自信たっぷりな調子に乗せられてしまっているだけなのかもしれない。いっけん青春小説をイメージさせる苦さの「死人を起こす」にしたって、メルカトルが登場したとたん、ぶち壊しになる。当然、「答えのない絵本」や「密室荘」に関しても一筋縄ではいかない。ともすればネタを割ってしまうことになるのだが、犯人探しは絶対によしておけよ、あらかじめ忠告したくなる裏切りのみが、満載してある。

・その他麻耶雄嵩に関する文章
 『神様ゲーム』について→こちら
 『蛍』について→こちら
posted by もりた | Comment(1) | TrackBack(1) | 読書(2011)
この記事へのコメント
この短編集は推理自体が美袋通じて読者を騙すためにあります。
ただネタを割ってないってだけですね。答えのない絵本と、密室荘は。
それ以外に違いはありません。

答えのない絵本をネタバレすれば、メルの推理自体がデタラメで、
部屋のタバコの煙から犯行時間は5時近くです。犯人のために嘘の推理しました。
犯人は推理においてアリバイのある土岐です。
アリバイのあるものこそ犯人です。

密室荘は窓とドアは閉まってたのは事実で、死体は外にでも置かれてて、
すねに傷あるメルカトルは死体処分しようとして、
そこにのこのこ起きてきた美袋をおちょくってるだけですね。
騙される美袋と読者が馬鹿なんです。
嘘はついてませんから。夜に戸締まりして出入りできなかったのは事実ですから。
Posted by かく語りき at 2011年07月06日 14:48
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Tracked: 2013-02-27 00:33