ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2011年05月10日
 乱飛乱外(9) (シリウスコミックス)

 さすがにもういい年齢であるから、所謂ハーレム型のフィクションに胸をときめかせたりすることもないのだったが、この田中ほさなの『乱飛乱外』に関しては、素直に、すごく好きだ、と言えるのはつまり、ストーリーやテーマが、男の子の魅力とは何か、という問いをぐるりとめぐるなかに、エモーショナルでいて確かな手応えを残せているからなのだと思う。

 そしてそのことが、フォーマットの必要上、次々に新しい女性の人物を出さなければならないため、回り道をふんだんに用意せざるをえないにもかかわらず、作品の核を行方不明にはしていない。方向性を見失わないまま、ファン・サービスを注ぎ続けていたのも立派であるし、実際、最終9巻のエンディングには、たいへん充実した印象が備わっているじゃんね、であろう。

 長い旅の結末は、主人公である雷蔵と強敵である星眼がメイン・ヒロインにあたるかがりの争奪戦を繰り広げることによって迎えられていく。雷蔵と星眼の対照を通じ、男の子の魅力とは何か、が極めて明瞭に提出されているのである。そのとき重要なのは、各人における国盗り合戦、軍記ものレベルの野望が、各人における身の丈に合った正義の、あくまでも下位に回されていることだ。すなわち、意中であるような女性の歓心をどうすれば得られるか、に物語のプライオリティが置かれている。

 当然それは、男の子の魅力とは何か、の問いに言い換えられるのだけれど、ふつう、星眼みたいなライヴァルが主人公の前に立ちはだかり、バトルでしか勝敗を分けられぬ局面に入っていけば、巨大な使命が浮上し、何よりも優先されそうな展開になりがちだが、そうなってはいないところに注意しておきたい。

 男の子の魅力とは何か、という解答が必ずしも大義を果たすことで達成されるものではなくなっているのである。勝者と敗者の違いもそこで分けられていく。当初のインパクトからしたら、ここにきて星眼が弱体化したと受け取れるふしもあるにはあるが、ストーリーやテーマを考慮するのであれば、獲得し続ける者である雷蔵と喪失し続ける者である星眼の差が如実になった結果、そのように見えると解釈すべきだろう。

 恒久平和という巨大な使命のために多くの犠牲を惜しまない星眼は、やはり喪失し続ける者でしかないのだ。星眼が、かがりに執着するのは、ある意味でその空漠を脱するのに必要とされた目的だからなのであって、クライマックスに至り、雷蔵との入れ替わりが試みられるのは、喪失し続ける者が獲得し続ける者への反転を叶えるのに適した手段であるからにほかならない。

 ではしかし、雷蔵のいったいどこが獲得し続ける者としての資格に合致しているのか。もちろんそれは、男の子の魅力とは何か、と問うてみせることと同義であって、おそらくは誠実さにすべてが由来していることは、星眼に向けられるかがりの懐疑あるいは雷蔵に向けられるかがりの信頼に述べられている。すなわち彼女にとっての「との」は〈いつでも女子に誠実で――そのために身体を張って〉いたのであり〈こんな不実な方ではなかった!!!〉のだった。

 誠実さとは、一対一の関係を、見ると見られるの立場に区分したさい、前者が後者に与える評価だといえる。だが同時に、後者から前者への働きかけでもある。かがりの特殊能力である「神体合」は正しくその具体的な実用例になっていよう。誠実さが破られ、自他のフェアネスが歪められてしまったとき、「神体合」は「邪体合」に裏返り、術者に破滅をもたらすのである。

 そしてそれを救うことができるのもまた誠実さであった。どうしてかがりは、「神体合」の念者として、星眼ではなく、雷蔵を選んだのか。これはそのまま、男の子の魅力とは何か、を代弁するような展開を運んでくることになる。すでにいったとおり、誠実さをその解答に当てはめられるわけだが、一方で雷蔵の誠実さはどこからやって来ているのか。成りゆき、かがりと対峙しなければならなくなってしまう彼のせつなさに『乱飛乱外』の梗概が印される。

 いわく〈なんで失くすまで気が付かなかった? 初めて会った時から オレに向けてくれたあのまっすぐなまなざしこそが―― 里で誰からも相手にされてなかったこのオレに― 人を好きになる心を 人と関わる勇気を 与えてくれたんじゃなかったのか 見られることで 強くなってたのは オレの方だったのに――〉

 結局のところ、誠実さは個人が自動的に生成しうるものではない。互いに関与し合う個人と個人のあいだで手渡し、強要するのではなく、共有されるような心象なのだと思う。たとえハーレム型のフィクションだったとしてもそれが普遍的なものであることを期待する以上は変わらないであって欲しい。

 3巻について→こちら
 2巻について→こちら
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ(2011)
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