ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2011年04月16日
 アオハライド 1 (マーガレットコミックス)

 多くの場合、学園ものというのは、いかにしてリ・スタートを切るか、で幕を開ける。失敗のすべてはもう過去の出来事にしなければならない。そこから先にたくさんの真新しいチャレンジが待ち受けている。くじけかけ、乗り越え、ひたすら前を向くこと。失われたはずのものもやがて形を変えながら再び目の前に現れうるかもしれない。このような可能性がその後の物語を引っ張ってくるのである。咲坂伊緒の新作『アオハライド』は、その出発点を見るかぎり、正しく学園ものならではの魅力を放つ。

 中学生の頃、双葉と田中はお互い惹かれ合っていたにもかかわらず、ささいな擦れ違いから、気持ちを断念、離ればなれの状況になってしまう。高校一年の生活が終わる頃、双葉は馬淵という男子生徒に田中の面影を見つける。はたして馬淵の正体は田中その人であった。両親が離婚したため、名字を替えていたのである。馬淵洸との思わぬ再会は、しかし吉岡双葉に〈私が変わったように あの頃の田中くんはもういない あの頃には戻れないんだ〉というせつなさをもたらした。

 主軸は、双葉と洸のラヴ・ロマンスであろう。いくつかの試練を前にあらためて心を通い合わせていく二人のプロセスが作品のダイナモとなっている。しかしてそれは、学園という小さな世界を少女や少年が生き直そうとする姿との重なりを持つのであって、この1巻では、中学一年から高校一年の生活のなか、別れていった人びと、新しく出会った人びととの関係をも大きく孕んでいく。

 ヒロインである双葉は、チャーミングなルックスをしているが、異性を苦手とし、また友人たちの嫉妬や反感を買わないように、わざわざがさつな素振りをしている。無論、それは一般化してしまえば、自分を偽るという行為にほかならない。彼女はクラスメイトで女子生徒からは浮いてしまっている槙田悠里を前に〈周りに どう思われても平気なんて得な性格 私だって本当は こういうの付けたいけど 今の私のキャラじゃないしさ〉と思うのだった。すなわち、ある種の抑圧が自分を不自由にしていることに気づいている。そこに止まるのか、あるいは変わっていこうとするのか。こうした分岐が、洸との再会を経たのち、高校二年への進級には託されているといえよう。

 前作『ストロボ・エッジ』においては、蓮や安堂くんといったハンサムでいてナイスな男子生徒が際立っていた作者である。『アオハライド』でも、馬淵洸の存在感には特筆すべきものがある。いやもう、田中くん(洸のことね)、性格にやや難のありそうなところを含め、ひじょうに見せ場が多い。とくに謙虚というより卑屈な双葉に対して〈あんなので気が済むなんて おまえ 安いな / そんなんだから友達との関係も安いんだ / あんなのただの 友達ごっこじゃん / くだらない〉と言い切るシーンが良い。じつに印象的だし、この関係の形成に向けられたシビアな視線は、彼の置かれた環境からやって来ている。両親の離婚や自分の学校の教師である兄とのコミュニケーションに依拠していることが暗示的に描かれている点は看過できない。

 双葉の、洸への呼び名が、以前の「田中くん」から「洸」に変化する場面、あれは洸との関係を新たにしていくうち、彼女の内面が確かに成長したことを象徴している。だからこそ彼女はそれまでの卑屈さを乗り越えられた。友人たちに自分の正直な気持ちを打ち明けることを厭わず、たとえ嫌われてしまっても、こう思えるようになれる。〈歩み寄って それでも無理だった時の事 あの頃は教えてもらわなかったな―― 教わらなかった事を知っていく 割り切る事も強さなんだって 今 知ったよ / 私はあの頃よりはきっと強い〉

 〈無くしてしまったのなら また 作っていけばいい / 次はもっと注意深く 今日からまた 一から作っていく / 始まる〉このような双葉の決意が、洸の働きかけによってもたらされたものであったとすれば、かつての素直さをなくし、いわくありげな表情を浮かべる洸もまた、おぞらくは双葉の働きかけによってべつの顔つきを得ていくに違いない。かくしてリ・スタートの物語は期待に満ちるスタートを切った。

・その他咲坂伊緒に関する文章
 『ストロボ・エッジ』
  10巻について→こちら
  5巻について→こちら
  4巻について→こちら
  3巻について→こちら
  2巻について→こちら
  1巻について→こちら
 『マスカラ ブルース』について→こちら
 『BLUE』について→こちら
 『GATE OF PLANET』について→こちら
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ(2011)
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