ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2011年03月29日
 シトラス 1 (マーガレットコミックス)

 誰とも理解し合えないことはすごく寂しい。しかし誰かと理解し合おうとすることでしかその寂しさは消せない。香魚子の『シトラス』は、小さな田舎町を舞台に、日常のなかで中学生たちが思わず背中を丸めてしまう瞬間を通じ、この世界のせつなさとやさしさを描く。今にも壊れ、失われてしまいそうなイノセンスを、ノスタルジックな詩趣に封じ込めた作品である。少女マンガのジャンル(『別冊マーガレット』)で発表されてはいるが、どこか松本剛の作風を彷彿とさせる。ストーリー、絵柄ともに、素朴であることが何よりの魅力になっている。山に囲まれた木ノ戸町の中学校に転校生の奈七美がやってきた。3年生のこの時期になぜ彼女が東京から越してきたのか、誰も知らない。学級委員長を任された志保は、奈七美に親しく接しようとするのだけど、反対に突き放された態度をとられてしまう。ここから物語は、志保や奈七美ばかりではなく、何人ものクラスメイトの胸中をリレーし、それらの、思春期ならではの姿をやわらかにスケッチしていく。まずこの1巻では、木ノ戸中の学生たちにとって、奈七美は都会という称号を持った異物としてあらわれている。だが価値観やスタイルがいくら洗練されていようと、彼女もまた他の子と変わりなく、自らの幼さと無力さに悩まされているところに、『シトラス』の本質が見え隠れしているだろう。そう、環境の違いを前提にしたとき人はたちまち相対化されるが、個々の営みは、期待と失望の絶え間ない接続を逃れられない、という点において、正しく共通しているのだと教えれるかのようだ。

・その他香魚子に関する文章
 『隣の彼方』について→こちら
 『さよなら私たち』について→こちら
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ(2011)
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