ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2006年06月06日
 あなたに不利な証拠として

 『SIGHT』誌「読むのが怖い!」で、北上次郎が褒めていたのをきっかけに読んだ。僕のばあい、そのパターンが多いな。とはいえ、そのなかには、なるほど納得できるものもあれば、もちろん、それほどでもないような、というのもある。このローリー・リン・ドラモンド(駒月雅子・訳)『あなたに不利な証拠として』は、圧倒的に前者、間違いなく読んでよかったと思えるものであった。ルイジアナ州バトンルージュ市警に勤務する女性警官たちの、一般市民から見れば、一生関わりたくないが、しかし彼女たちにしてみれば、ほぼ日常と同義の苦悩、苦痛を捉まえた、10の短編が収められている。そのうちで、05年エドガー賞最優秀短編賞を受賞したのは「傷痕」である。北上はべつの1編「味、感触、視覚、音、匂い」がいいといっている。が、僕は「制圧」を挙げたい。ひとりの女性警官が、とある現場の緊急性のなかで、自らの過去をフラッシュバックさせていくと、そういう感じのつくりになっている。彼女の、肉体と精神の双方にかかる緊張が、文章に、するどいテンポの弾みを生じさせている。この短編集においては、もっともスリリングな読み応えを持つ1編だと思う。最後の2編「生きている死者」と「わたしがいた場所」は、すこしばかりサスペンスとメロ・ドラマの定型に接近しすぎているため、やや気勢を削がれるところがあったけれど、それでも退屈はしなかった。それらを含め、総体的には、ひじょうに充実した内容だといえる。通報を受け、まだ他に誰も到着していない現場に駆けつけた登場人物たちが、まず最初に対面する他者は、たいていのばあい、死体(遺体)である。死体とは、この世で唯一、死を体現したものであろう。それを前にしたとき、彼女たちのほとんどは、死を近くに感じ、死そのものと向き合い、死の内側を覗き込み、自分のなかにその重たさを感じとる部分のあることを、知る。そこから伸びてくるイメージに呑み込まれず、耐え、あくまでも生者としての営みを引き受け、まっとうすること、そのような物語による要請が、ナイーヴな感傷にほだされない、ある種ドライで硬い筆致へと結びついているのではないだろうか。
posted by もりた | Comment(2) | TrackBack(3) | 読書(06年)
この記事へのコメント
絶賛する書評が目に留まって読んでみましたが、一筋縄の警察小説ではありませんでしたね。
日常性と異常性。明と暗を鮮やかに書き分け浮かび上がる不条理と狂気。人間あるいは人生のいきかたを生々しく書いてありました。
傑作でした。
Posted by よっちゃん at 2006年06月12日 15:09
よっちゃんさん、どうも。いや、これ、たしかに良かったですね。僕の生きている日常とはぜんぜん違う景色なはずなのに、ずしんと心に響き、共感させられるものがありました。
Posted by もりた at 2006年06月13日 18:21
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「あなたに不利な証拠として」を読みました
Excerpt: ハヤカワ・ミステリ あなたに不利な証拠として 警察官の半ノンフィクションです。
Weblog: 純情きらりの原作 津島佑子さん著「火の山」の情報
Tracked: 2006-06-11 14:22

ローリー・リン・ドラモンド 『あなたに不利な証拠として』
Excerpt: 著者は警察官の経験があると訳者あとがきで紹介されているが、これはまさしく警察小説である。ただし、かなり異色だ。五人の女性警察官が一人称で語る短編集だが、事件そのものの不可解性よりも人間性に共通..
Weblog: 日記風雑読書きなぐり
Tracked: 2006-06-12 15:21

「あなたに不利な証拠として」(ローリー・リン・ドラモンド/早川書房)
Excerpt: オススメ度:☆☆★★★ オススメポイント:制服女性警官 あなたに不利な証拠としてローリー・リン ドラモンド Laurie Lynn Drummond 駒月 雅子 早川書房 2006-02売り上げ..
Weblog: びぶりおふぃりあ
Tracked: 2006-07-09 02:42