ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2006年06月02日
 銃とチョコレート

 実際のところ、怪盗と探偵の対決が、いまどき僕たちを魅了する、冒険のときめきを、スリルと興奮とを与えてくれることなどあるのだろうか。そのような問いの退屈さを、乙一の小説『銃とチョコレート』は、易々と飛び越えてゆく。母と子ふたりの貧しい生活を営むリンツ少年にとって、世間を騒がす謎の怪盗ゴディバを追う名探偵ロイズの活躍は、学校の友人たちと共有する、ほとんど唯一の明るい話題であった。ところが思わぬことで、ゴディバに通ずる秘密を知ったリンツ少年は、それをきっかけに、憧れの人であるロイズと知り合うことになる。かくして幕を開ける物語は、じょじょに速度をあげてゆき、中盤以降、読み手の予想を裏切り、読み手の期待に応える、転回に次ぐ転回の連続によって展開していくのである。じっさいに3章から先の流れは、息を呑む、というのに相応しい、クライマックスの応酬だといえる。なだれ式の勢いで、こちらを取り込んでいくけれども、伏線の回収は、じつに鮮やかに決まっており、ひさびさにこの作者の力量が並みのレベルではないことを、思い知らされた。レイシズムやマスメディアなどを含め、今日にアクチュアルな社会的要素が、背景に、違和感なく置かれているのも、よい。さらに見事なのは、大枠において、小説内の時間で怪盗がつねに探偵を先行するといった位置関係が、最後の最後まで一定にキープされていることであろう。主人公であると同時に〈ぼく〉という語り手であるリンツ少年は、探偵のさらにあとを追いかけるかっこうとなる。しかし最後尾にいることで、怪盗から探偵へという過程を経て周囲を巻き込んだ事件の全貌を、登場人物のなかでただひとり彼だけに、把握可能とさせる構図の妙が、全体をきれいな円環のかたちにまとめているのだった。〈かつて子どもだったあなたと少年少女のために〉書かれた「ミステリーランド」という刊行シリーズのうちの一冊であるためか、平仮名が多用され、「〜だった」や「〜た」「〜だ」でリズムを整えた文章も、雰囲気を盛り上げるのに一役買っているとは思うのだが、そのなかでいくつか、僕が数えたかぎりでは4箇所ほど、「〜である」というふうに記されているところがある。どのような効果を狙ったものかはわからないが、まあ意味なんてないのかもしれないけれど、かなりおもしろくつくられた作品のなかで、その点だけが、やや緊張感を削いでいる気がした。

 「愛すべき猿の日記」について→こちら
 『小生物語』について→こちら


posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(3) | 読書(06年)
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