ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2005年02月08日
 『群像』3月号掲載の短編。いやいや、僕はこれまで生田紗代のことを良く思っていなかったのだけれども、ごめん、これはなかなかだった。まず、だいいちに料理や音楽の書かれ方が、これまでと違う。自分のフィーリングを誇示するために使われるのではなくて、ちゃんとディテールに止まる程度に抑えられている。物語を読むのに邪魔にならない。そのため、読み手が感情移入できる幅が、ぐっと広がった。さらに、主人公の造形(自意識)が、以前までの作品とほぼ同型でありながらも、みょうに生々しくなっており、かつてなら鼻についた嘘臭さが消えている。すると、ちゃんとしたキャラが立ち、性格の良し悪しはともかく、惹きつけられるようになるので、不思議だ。話の筋を簡単に取り出すと、妊娠とは無関係に生理の来なくなってしまった「私」は、思い当たる節もないせいで、いつもそのことを気にかけてしまう、気に病んでしまう、そんなとき親しい友人が、今にも別れそうな恋人の家からペットの亀を持ち出してきて欲しい、と頼みを持ちかけてくるのだった、ってな具合。小説の最後で、ゆっくりと歩く亀の姿に〈昔から私は、余計なことを考えすぎる〉という自分の想いを重ねるあたり、テーマみたいなものとしては、自分は自分のスピードでしか生きられない、と終盤で気づく『十八階ヴィジョン』と重なるところがあるわけだが、しかし、こちらのほうが、ずいぶんと説得力が強い。だから、もっとなにか大事なことが行間に書かれているのでは、という気がしてくる。余韻がいい。

 『十八階ヴィジョン』についての文章→こちら
 『タイムカプセル』については→こちら
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書。
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバック