ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2011年01月11日
 ナンバデッドエンド 11 (少年チャンピオン・コミックス)

 難破剛、ついにぐれる。

 喧嘩上等の青春を期待された少年が、いかにぐれず、健全で真っ当な学園生活を送り続けられるかを『ナンバデッドエンド』は、コメディとシリアスの絶妙なバランスを保ちながら描いて来たのだったが、9巻と10巻におけるドラマティックなほどの急転回を経て、ああ、やるせないことこの上ない、『ナンバMG5』から続くシリーズのなかで最大の絶望へと至った。あんなにも必死で自分の居場所を守ろうとしていた主人公の剛が、その努力も空しく、白百合高校から追放されてしまうのである。作者の小沢としおが、やはり只者でないのは、作中人物たちはもちろん、読み手の多くが決して望みはしなかった展開を、ここに用意したことだろう。

 やられた。うわわわ、の驚きがあり、ちくしょおおっ、の悔しさがある。はたして試練は終わったのか。それとも受難は続くのか。この11巻では、すべてが御破算になろうとする瞬間が、そしてすべてが御破算になったあとでも青春は続いていくという残酷が、悲劇的に繰り広げられている。

 あらかじめ生まれや育ち(遺伝と環境)に規定された人間が、他でもありえた可能性(オルタナティヴな人生)をあらためて選び取ろうとする。『ナンバデッドエンド』の背景には、そういう、現代に特徴的なテーマが控えられているのであって、それが、ヤンキー・マンガのジャンルで培われてきた学園もののノウハウを生かし、通俗性に臆さないレベルのエンターテイメントへと引き上げられているところに、すぐれた魅力があるのだけれども、呪われ、戦い、勝った、の幸運は、先に述べたような挫折に邪魔され、さらに遠のいた。他でもありえた可能性にトライすべく、学生服と特攻服の二重性を生きなければならなかった剛が、しかし不可避な暴力に巻き込まれ、本来ならば捨て去りたい方の選択肢を強いられていく10巻は痛ましかった。せっかく両親に秘密を打ち明け、和解し、一歩前進できたと思ったのも束の間、結局のところ定められた運命は変えられないのか、ちょっとした躓きで何もかもが無駄になった。いとも簡単に〈全部終わっちまった……〉のである。

 再起のチャンスはあった。退学処分を言い渡された彼を救おうとし、クラスメイトたちが奔走する。その甲斐もあって、学校はいったん意見を取り下げるのだが、剛の存在を認められない者もいた。あくまでも利己と保身を通したい校長は、〈難破は必ずまた騒ぎを起こす… 更生させるなぞ理想にすぎん 人間は変わらんよ…〉と非情にも言い放ち、それを受けた強硬派の教師、桐山は、剛の入学の裏に隠された秘密を暴き出してしまう。

 過去にも再三見られた中学時代の恩師、長谷川との関係が、ここにきてある種の伏線になっているのが、うまいというかずるいというか、とにかく泣ける。泣けるのだ。9巻で長谷川が進路に〈迷ったら白百合の先生に相談しろ〉と剛に発した言葉が、桐山との対面においては、まるで皮肉のように思われる。そう、どんなトコにもゲスはいるんだな。〈バレたんだ… 桐山に長谷川がオレの白百合行きに手ぇかしたこと 願書と提出する書類に手ぇ加えたことがバレたんだ〉と妹の吟子に告げる剛の、穏やかな表情は、決着してしまったことはもう取り返しがつかないのだと教えているようでいて、最高潮につらい。長谷川を助けるべく、〈お前が学校やめたら まぁ…昔のことを報告しても しょーがないからな…〉という桐山との取り引きに応じ、剛は自主退学を申し出るのだった。

 そこからの物語はもう、だめだ、だめだ、目にするだけで胸の奥から込み上げてくるものがあるよ。剛の身を案じる人びとの、気持ちがわかるぐらいのやさしさに、ぼろぼろ涙がこぼれそうになる。〈何で走るのをやめた 何があったか教えてくれ〉と尋ねる伍代はほんとうにいい奴である。だが、それに答えられない剛を誰が責められよう。長谷川に事情を話せず、約束の果たせなかったことを謝るしかできない剛にどんな咎があろう。そしてとうとう剛は、次のような苦しみに支配される。〈オレが白百合なんか行ったから 大事な人みんなに嫌な思いさせちまった… 白百合なんて行かなきゃよかった〉

 この反省は、反省のさらなる反省というねじれた構造を持っている。フラストレイトした気分をどこにも逃がせないという厄介な病理に通じている。結果、難破剛は、ついにぐれた。

 かつての友人たちや、あたたかな両親とさえ、穏当に接せられないという意味での不良少年であり非行少年が、次第に道を踏み外していく。その仕方なさを皆が知っているだけに手を差し伸べられない。せめてどこかに出口があって欲しい。さもなくば、哀しすぎるではないか。

 あまりにもせつない。

 8巻について→こちら
 7巻について→こちら
 6巻について→こちら
 3巻について→こちら
 2巻について→こちら
 1巻について→こちら

 『ナンバMG5』
  18巻について→こちら
  17巻について→こちら 
  16巻について→こちら
  15巻について→こちら
  14巻について→こちら
  12巻について→こちら
  11巻について→こちら
  10巻について→こちら
  9巻について→こちら
  8巻について→こちら
  5巻について→こちら
  4巻について→こちら
  3巻について→こちら
  1巻について→こちら
  1話目について→こちら
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ(2011)
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