ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2010年12月26日
 ストロボ・エッジ 10 (マーガレットコミックス)

 咲坂伊緒が『ストロボ・エッジ』で残した最大の功績は、やはり、安堂拓海という発明であろう。いやもちろん、限りなくピュアラブルなラヴ・ストーリーこそが絶対の柱であって、『ストロボ・エッジ』を語る上での大前提にほかならないのだが、個人的には中盤以降、安堂くんの一挙手一投足から目が離せず、心が奪われっぱなしであった。パブリック・イメージにおいてはクールなイケメンさん、自分がもてていることにまったくの疑いがない、このような噛ませ犬の登場は、少女マンガのジャンルにとっていかにもスタンダードなものだ。ある意味、ステレオタイプな任務を物語に要請されているのだけれども、それが安堂くんの場合、噛ませ犬であることの悩ましさが作中人物の誰よりも表情を豊かにし、しかしそのことすらもひた隠そうとするほどにナイーヴな秘密主義を通じて、おいおい、こんなにも可愛らしい男の子がいるのかよ、という新鮮な驚きがもたらされていたのである。実際、主役の二人、仁菜子と蓮の関係にしても、安堂くんの魅力を彼女たちだけがよく知っている、こうした事実に邪魔され、結果的に後押しされていた点は看過されてならない。つまりは、贔屓目でも何でもなく、安堂くんこそが中盤以降の展開を大きく担っていたのではなかったか。ここまでの文章において、彼にのみ「くん」付けしているのは、その重要性に惜しみない敬意を払ってのことだと思われたい。だが、いくら安堂くんを高く評価してみたところで、自分がもしも仁菜子だったら蓮を選ぶしかないだろう、の説得力を備えていることが、『ストロボ・エッジ』の見事さだといえる。自分がもしも仁菜子ではなく、別の女の子であったならば、それこそ中学生時代から繋がりのある真央がそうしたように、蓮を諦めて、安堂くんを選ぶよ。しかるに仁菜子が、この、限りなくピュアラブルなラヴ・ストーリーのヒロインであるためには、蓮じゃないと駄目だった、蓮以外では駄目だったのだ。あるいはそれは連にしても同様であって、もともとは麻由香という恋人がいたにもかかわらず、仁菜子に惹かれはじめ、仁菜子じゃなくてはいけなくなってしまう。決して麻由香に対し一途じゃなかったわけではない。不純な動機からではない。目いっぱいの誠実さが、蓮と麻由香を別れさせ、そして仁菜子と安堂くんを結びつけさせなかったのだとしたら、同じく目いっぱいの誠実さで、仁菜子と蓮は互いの感情を確かめ合い、シャイであることの壁を越えていった。その誠実さを引き出したのは、疑うべくもなく、恋の魔法というもので、この恋の魔法が孕む清潔な可能性を『ストロボ・エッジ』は全10巻の長さ(およそ3年の月日)をかけ、散漫にへたれることもなしに、真っ直ぐ真っ直ぐ描いてきた。途中参加気味の安堂くんではあるが、そこから最後までよくがんばって物語をリードしてくれた。友情や愛情の厚さに、はにかんだ君のキュートさを忘れない。おそらくは君のおかげなのだ。限りなくピュアラブルなラヴ・ストーリーの、ハッピー・エンドに文句はつけられまい。

 5巻について→こちら
 4巻について→こちら
 3巻について→こちら
 2巻について→こちら
 1巻について→こちら

・その他咲坂伊緒に関する文章
 『マスカラ ブルース』について→こちら
 『BLUE』について→こちら
 『GATE OF PLANET』について→こちら
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバック