ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2010年11月22日
 何はともあれ『ヤングチャンピオン』NO.23(前号)の次号予告を目にした瞬間の衝撃といったら。うおお、ついにこのときが来たか。声をあげずにはいられなかった。まさかまさか、立原あゆみの二大巨編『本気!』の主人公と『仁義』の主人公の共演が仄めかされていたのである。実際、ファンの多くにとっても事件であったろう。もちろんこれまでにも同一の世界観をシェアする立原の作品群において、双方の作品がリンク、ニアミスする機会がまったくないわけではなかった。しかし、あの白銀本気(まじ)とあの神林仁と八崎義郎のコンビが直接に相まみえることだけは、それがまるで犯してはならないタブーであるかのごとく、避けられてきたのだった。だが、とうとうその禁は破られた。『ヤングチャンピオン』NO.24に掲載の『火薬』で、本気と仁義が緊張とともに接触を果たす。

 とはいえ、立原あゆみデビュー40周年特別企画として発表された読み切りの『火薬』から、メモリアル以上の側面を見出すことは難しいかもしれない。けれどもやはり、いやむしろこれが描かれたということに意味がある。『火薬』では、現在連載中の『仁義S』の番外編に近しいスタイルがとられている。『仁義S』の主人公である猿山アキラが、漁師組合の揉め事にかり出され、同じく解決に出向いていた気志団というグループと邂逅する。いうまでもなく、アキラのバックに付いているのは仁と義郎である。そして、気志団のバックには本気がいる。つまり、アキラと気志団とをそれぞれの代理に置きながら、仁義と本気はお互いを視野に収めることとなるのだった。無論、ファンの願望としては、あのマンガの主人公とこのマンガの主人公はどっちが強いんだろうね、的なドリーム・マッチを実現してもらいたいところであって、残念ながらというべきか、それは叶えられなかった。あくまでも一つのエピソードの両端を『仁義』のメインと『本気!』のメインが担っているにすぎないのだったが、場合によってはさらなる展開もありうるぞ、と期待させる決着が心憎い。

 それが立原あゆみ版『大甲子園』になるかどうかは不明ではあるものの、もしもあるとすれば『本気!』シリーズの正統な続編として描かれる可能性が最も高い。『本気!サンダーナ』と『仁義S』の物語を通じ、巧みに回避されてきた風組と関東一円会と極地天道会の三つ巴が、壁村耐三というカリスマをかつて抱いた『あばよ白書』の猩猩組はもとより全国の極道を巻き込み、にわかに日本が内乱状態と陥ったなか、すべてのヤクザの夢はヤクザをやめることでなければならない、このようなテーマを背負った本気が、テロリズム的なアプローチも良しとする『仁義』シリーズの世界へと介入していくというのが、作者のヤクザ・マンガを総括するのに相応しいシナリオであると思われるのだ。『本気!』も『仁義』もスタートした当初は、いけいけのチンピラを題材にすることで成り上がりのストーリーにダイナミズムを生み出していたが、作品の性格は完全に異なる。どれだけ慈愛を生きられるか、を本気が体現する一方、仁や義郎が引き受けていたのは、どれだけ非情に生きられるか、であったろう。

 今回の『火薬』において、本気はほとんど事件に関与していない。『弱虫(ちんぴら)』のクライマックスと同じく、ただ圧倒的な存在感を知らしめるのみである。仁に〈あの野郎 指鉄砲でオレを殺した〉と言わせ、義郎には〈男も女も触ってはいけない奴がおる〉と言わせるにとどまっている。しかしそれは立原ワールドの真底に込められた揺るぎない信念を実は教えているのであって、本気の姿を目の当たりにしたアキラが〈オレは! 潰しがいのある憧れがいたような気がした〉と火をつけられるのは、深遠を覗き見ることによる畏怖と尊敬のためにほかならない。

 ※立原あゆみの足跡や影響に関しては、『立原あゆみ 雑誌掲載作品データ』を同人誌で出されているsoorceさんのブログ「情報中毒者、あるいは活字中毒者、もしくは物語中毒者の弁明」にたいへん詳しくまとまっているので、ぜひそちらも御覧になってください。現在、立原あゆみデビュー40周年記念イベントも行われております。

・その他立原あゆみに関する文章
 『仁義S』
  12巻について→こちら
  11巻について→こちら
  10巻について→こちら
  9巻について→こちら
  8巻について→こちら
  7巻について→こちら
  6巻について→こちら
  5巻について→こちら
  4巻について→こちら
  3巻について→こちら
 『涙星〈アース〉チンピラ子守歌』1巻について→こちら
 『本気』文庫版
  9巻について→こちら
  8巻について→こちら
  7巻について→こちら
  6巻について→こちら
  5巻について→こちら
  4巻について→こちら
  3巻について→こちら
  1・2巻について→こちら
 『本気!〜雑記〜』第1話について→こちら
 『恋愛』
  5巻について→こちら
  4巻について→こちら
  3巻について→こちら
  2巻について→こちら
  1巻について→こちら
 『極道の食卓』
  8巻について→こちら
  7巻について→こちら
  6巻について→こちら
  5巻について→こちら
  4巻について→こちら
  3巻について→こちら
  2巻について→こちら
  1巻について→こちら
 『ポリ公』
  4巻について→こちら
  2巻について→こちら
 『月の教室』について→こちら
 『喰人』1巻について→こちら
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