ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2006年04月23日
 『文學界』4月号掲載。要するに、今月号ではなくて、先月号に載っていたものである。いや、今さらなのだけれども、ふと目にとまったので、パラパラとページをめくり出したら、何気におもしろく、最後まで行ってしまった。正直をいえば、吉田知子のものを読むのは、この『野良おばけ』がはじめての経験となる。自分の夢のなかにいるみたいな〈私〉は、けっして目を覚ますことのない〈おばけ〉だった。その〈私〉の意識が、さまざまな場面を移動し、やがて死のうと考えるが、しかし〈おばけ〉であるために、死ねない、そして〈私はこのことをもう明日には忘れてしまっているだろう〉と思い、終わりのない繰り返しが訪れることが示唆され、小説は終わる。そのような具合に、ひとまとまりに固まった物事の顛末が語られるのではなく、ひじょうに抽象的な出来事がワープ航行で進むみたいに、書かれている。そのなかには、セックス(性交と性別)や死に関するイメージ、それから戦争へと連なる記憶が、濃厚に含まれており、読み進めるうちに、語り手であるところの〈私〉は、いや、じっさいには〈おばけ〉などではない、もしかすると精神を病んだ、なにかしらかのオブセッションを抱えた、または幼児退行した老人なのではないか、と行間に目が向く。〈私〉の落ち着きのなさは、序盤は、愉快な感触を湛えているのだが、字数を重ねるにつれ、だんだんと不安だけが高まっていき、狂った情緒に支配されれば、ついに、生きることの前後不覚な有様を、読み手であるところの僕は知らされる。
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(06年)
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