ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2010年11月11日
 マンガ史に名が残ることはないだろうし、大勢に影響を与えることもないのだろうが、しかし良質だと認められる作品が一つ、完結した。所十三の『AL(アル)』である。『白亜紀恐竜奇譚 竜の国のユタ』とその続編『D-ZOIC』で、恐竜時代のファンタジーを確立した作者が、新たな趣向を凝らしながら、やはり見事なまでにダイナソーのロマンを描き上げている。『ユタ』シリーズと大きく異なるのは、人間(ホモ・サピエンス)がいっさい登場しないことだ。すなわち恐竜や古代生物しか出てこない。もちろん、恐竜の生態をイメージし、スケッチを試みたマンガというのは、これまでにも数々ある。この作家にも『DINO2』があったことを忘れてはならない。だが『AL』ではそれが、あくまでも少年マンガ的なエンターテイメントの正統に昇華されている点こそを、高く見られたい。人間の少年像を模したトリケラトプスの主人公アルが、いくつもの障害を乗り越え、多くの仲間を得、宿敵であるティランノサウルスの牙王率いる肉食の軍団に戦いを挑んでいく。テイストとしては、高橋よしひろの『銀牙』シリーズやアニメーションの『ガンバの冒険』に近しいかもしれない。いずれにせよ、小さき者たちが力を合わせて大きな存在に立ち向かう姿に燃える。感動させられる。クライマックスにあたる4巻で、ついにアルは牙王と直接対決することになる。もうねえ、このあたりがさあ、アルの仲間カブの如実な成長であったり、老兵のエドが若い世代に託す希望であったり、心をぐらぐら揺すってきてたまらないのであった。確かに、展開としてはステレオタイプなのであって、古くさいと言わば言えなのだったが、いやいや、少年マンガ的なエンターテイメントの正統とは、ずばりこれではなかったか。愚直なほどに、健全なぐらいに、核心を突いている。反面、そのような性格、作風や題材を含め、ほとんどキャッチーには思われなかったのが惜しい。また、デフォルメよりもディテールを優先したせいか、作中の個体に区別がつけづらく、こいつ誰だったっけな、感情移入を逃してしまう場面が少なくなかったのも悔しい。

・その他所十三に関する文章
 『D-ZOIC』
  6巻について→こちら
  3巻について→こちら
  2巻について→こちら 
 『白亜紀恐竜奇譚 竜の国のユタ』
  8巻について→こちら
  7巻について→こちら
  5巻について→こちら
  4巻について→こちら
  1巻について→こちら
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