ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2010年10月21日
 爆音伝説カブラギ(1) (少年マガジンコミックス)

 佐木飛朗斗の宇宙は、何度となくパートナーを違えながら、いくつもの作品をまたぎながら、つねに膨張をし続け、はたして秩序があるのかどうか、余人にはうかがい知ることのできない様相を呈しているのだったが、まさかそれがここにきて、ついにクロニクル化されるかよ、といった幕開けにまずは驚かされるのが、『爆音伝説カブラギ』である。

 作画をつとめる東直輝とは、『外天の夏』や『妖変ニーベルングの指環』に続き、三度目のタッグとなるのだけれども、それはさておき、イントロダクションにおいて、所十三と組んだ『疾風伝説 特攻の拓』の、あの群雄割拠を前史に抱いていることが明らかとされている。すなわち〈1990年 爆音小僧六代目真嶋夏生引退。族(チーム)は解散状態となる‥‥翌1991年 鮎川真里 CB400Fourを再生するとともに七代目を襲名。横浜大抗争時代の幕開けであった‥‥〉のであって、そこから数十年後、伝説のCB400F(フォア)を受け継ぎ、爆音小僧の十六代目を襲名した少年、鏑木阿丸の活躍を『爆音伝説カブラギ』は描く。

 天羽時貞が在籍した獏羅天は現在、B・R・Tというギャング集団に形態を変えている。魍魎の武丸は、その姿こそ見せていないが、大企業「一条グループ」の次期総帥として不良少年たちに憧れられている。時代は変わったのだ。にもかかわらず、あの頃と同じく街にはまだ血が流れ続けているようであった。そしてそこに登場するのが、真紅のCB400Fを駆り、かつては鮎川真里や浅川拓の通っていた私立聖蘭高校の一年に転校してきた主人公の阿丸なのだが、彼がB・R・Tの幹部候補である桜庭多美牡の幼馴染みであったことから、因縁の糸が複雑に絡まりはじめる。というのが、この1巻のあらましであろう。

 以前にも指摘したが、高橋ヒロシや田中宏(Wヒロシ)に代表されるとおり、現在のヤンキー・マンガは『機動戦士ガンダム』シリーズのようなアーカイヴ性と中上健次における路地のようなサーガ性を併せ持っている。佐木飛朗斗もまた、諸作を通じ、近しい傾向を強めつつあるといってよい。このとき『爆音伝説カブラギ』は、ある種のメルクマールになりうるのかもしれない。爆音小僧や獏羅天といった固有名は、要するに『機動戦士ガンダム』シリーズのエゥーゴやティターンズみたいなものだと考えられるし、桑原真也をパートナーにした『R-16』等にも役割を異にしつつ偏在していた「おバあ」とは、結局のところ、中上にとってのオリュウノオバみたいなイメージではないか。いずれにせよ、クロニクルならではの特質を前面に出してきたのは確かだ。

 他方、これまでとは傾向の違った点もうかがえる。何より、登場人物をむやみやたらに増やしながら、大風呂敷をひろげ、さらには不良少年が題材であるのに、なぜか政界や財界にもカメラを回し、物語がいったいどこへ向かっているのか、焦点が不明になる、という悪癖が(まだ)抑えられているのは、大きい。ヒロインも(現段階では)一人であって目移りしないし、おおよその対立構造もはっきりとしている。

 1-Dのクラスメイトたち、なかでも爆音小僧に思い入れの強い菊川富弥也の反感を得ながらも、次第に協力関係となり、阿丸は、多美牡ひいては蓮之葉学園やB・R・Tとの決戦になだれ込んでいく。このように筋道は(留保がしつこくて申し訳ないのだけれども、とりあえずは)一本化されているのである。

 そして、なるたけ注意されたいのは、主人公である鏑木阿丸の性格と行動だ。彼は決して『特攻の拓』の浅川拓や『外天の夏』の天外夏のようなオタクでもなければ消極的な人物でもない。宮沢賢治的な無抵抗主義あるいは神聖もしくは偽善によってそのポジションを確保されているのではない。むしろ積極的に自分の旗を振り、ばんばん敵をのしていくのである。この差は、やはり看過できない。作者の用意した都合の良さでは、もはや世界に関与することはかなわない。あたかもそう告げるかのようなパワーを溢れさせている。

 転校初日、自己紹介の場面で阿丸は言っていたな。〈夢は“宇宙飛行士”〉であると。〈凄ェだろ? テメェら! 成層圏脱出だぜ〉と。それはもしかしたら、まあ妄想が過ぎるものの、彼こそが佐木飛朗斗のつくり出した宇宙を飛翔し、抜けていった先でありとあらゆるを一望する、こうした企図を、象徴的に、思わせるのだった。

・その他佐木飛朗斗・東直輝に関する文章
 『妖変ニーベルングの指環』1巻について→こちら
 『外天の夏』
  5巻について→こちら
  4巻について→こちら
  3巻について→こちら
  2巻について→こちら
  1巻について→こちら

・その他佐木飛朗斗に関する文章
 『爆麗音』(漫画・山田秋太郎)
  6巻について→こちら
  5巻について→こちら
  4巻について→こちら
  3巻について→こちら  
  1巻・2巻について→こちら
 『パッサカリア[Op.7]』について→こちら
 『[R-16]』(漫画・桑原真也)12巻について→こちら
この記事へのコメント
1巻を読んで自分も驚きました。話がすっきりしている!(笑)
佐木先生にも思うところがあったのでしょうか。
東先生の絵もどんどんよくなっているし、新しい佐木ファンを獲得してほしいと思います。

ほんとうは『拓』が再版されたらいいのですけど… 事情があるのでしょうが、なんとか実現してほしい。
Posted by まこ at 2010年10月23日 20:04
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのTrackBack URL
http://blog.seesaa.jp/tb/166607049