ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2006年04月08日
『文藝』06年夏号掲載。山崎ナオコーラの文藝賞受賞第一作にあたる『浮世でランチ』は、簡単にまとめるのであれば、ひとりの女性がこの世界と和解する過程を追った、そういう小説であると思う。こういう言い方はあまり褒め言葉にならないのかもしれないが、いわゆる「自分探し」にまつわる物語だともいえる。〈元来私は、好きな人に対して以外に、仲良くなる努力をする気が起きないから、ぼうっとしていた。他の友だちを作る気にはまったくならなくて、休み時間はひとりで廊下を散歩した〉。そのようなスタンスのまま大人になった〈私〉は、社会に出てからもひとりで、公園に行って、ランチをとる。同じ会社の女性社員たちのする話は〈全部がくだらなく思えて、猫と食べる方が楽しいような気が〉するからである。しかし、そのような生活も2月のはじめに、いったん終わりを告げる。退社して2日後に〈私〉は、ひそやかな目的のため、タイ行きの飛行機に乗っていた。ふとした瞬間に思い出されるのは、中学校のときのことだ。犬井やタカソウ、鈴木くんや新田さんたちと興じた「宗教ゴッコ」のこと。〈私〉は神様と文通をしていた。でも神様みたいなものに祈るのを止めたのも、そのころのことだった。そのようにして25歳の〈私〉の旅と、14歳ぐらいの〈私〉をめぐる記憶とが、読み手の前に、パラレルで提示されるつくりになっており、そのなかで〈私〉の旅行の目的もあきらかになってゆく。明言されているわけではないが、「ここではないどこか」を目指したあとで、「いまここ」に帰ってくるところが、主題めいたものであろう。さらに付け加えるとすると、神様という定義の受け取り方と、同性間のコミュニケーションとが、世界と触れあう〈私〉という自意識に、ふかく関与している。さまざまな箇所に、類い希なる凡庸さを感じさせるが、そのことも含めて、けっして悪い読後感をもたらさない。しかし、まあ『人のセックスを笑うな』もそうだったが、題名のつけ方は相変わらず、内容とのミスマッチを感じさせた。

 『人のセックスを笑うな』について→こちら
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(06年)
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