ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2010年08月07日
 賢い犬リリエンタール 4 (ジャンプコミックス)

 リリエンタールはほんとうにかわいいなあ。ほんとうにやさしいし、ほんとうに賢いのだな。葦原大介の描く『賢い犬リリエンタール』がほんとうに好きである。

 全4巻という長さは、『週刊少年ジャンプ』の傾向からすると、ほとんどヒット作とは見られないだろうが、そうしたサイズも含めて、ほんとうにとてもナイスなマンガであったと思う。

 コメディの要素が強い作品ではあるけれども、ふいにこう、じんわりとさせられるものがあって、それらがコントラストというよりも、一つのやわらかな基調をなしていたところが、最大の魅力であった。

 エンディングに向かい、背景下の物語にあらかたの決着がついていく様子を、すまん、ついつい涙しそうになりながら、読んだのだ。

 不思議な力を持った犬、リリエンタールが、ついに本気となった黒服の組織にさらわれてしまう。リリエンタールの姉であるてつこやその兄、そしてこれまで縁のあった人物たちが一致団結し、リリエンタールの救出に出発する。

 作中でいわれているとおり、リリエンタールとは、人間の心や意識を現実化する能力そのものであった。これをめぐり、いわば私欲と善意とが正面からの争奪戦を繰り広げる。しかしながら、さほど難しい筋書きではない。

 要するに、一個の人格を前に他人はいかような働きかけを持ちえるか、そうしたテーマを単刀直入なストーリーに編んでいるのである。

 クライマックスで、リリエンタールの語る孤独が、平易であるぶん、ひじょうに鮮明なあたり、作品の本質がよくあらわれている。いわく〈だれだって じぶんがいなくなるのはこわいですぞ?(略)きえてしまうのがこわいのは きっと だいすきなひとにあえなくなるからですな!〉

 生きること、死ぬこと、いなくなること、消えてなくなること、すべてがありふれているにもかかわらず、どうして慣れにくく、悲しまされるのだろう。もしもありとあらゆる人格に、心、が備わっているとすれば、それはいったいこの世界の何によって動かされ、明滅するのか。

 リリエンタールの言葉は、徹底された簡素さを通じ、ある種の真理を探り当てているのだったが、重要なのはやはり、これまでのエピソードにおけるギャグやナンセンスを経、リリエンタールならそう言うね、リリエンタールがそう言うなら間違いないね、と信じられる説得力が与えられていることにほかならない。

 あるいはこれまでのエピソードにおけるギャグやナンセンスとは、作中の人物たちが、リリエンタールの純粋さを受け入れ、変化していく過程でもあった。こちら読み手の感想もそこから由来している。

 単行本化にあたり、最終回のあとで新たなエピローグが加えられた。ヒロインであるてつこの、不登校児である彼女の卒業式が描き下ろされている。

 そこでは、本編のベースであったSFやファンタジーふうの展開はいっさい排せられ、しかし本編に等しいテーマがたしかに示されている。

 一個の人格が、他人に関与し、他人に関与され、心を動かし、動かされ、この世界もしくは社会とコネクトすることの成果が、笑顔、という具体例に表現されているのである。

 リリエンタールの行動に、たまらず、ぐっとくる。おまえはほんとうにかわいいやつだなあ。ほんとうにやさしく、ほんとうに賢い。

 はたして現実にはいくつもの困難が存在している。だが誰だって彼のように生きられるかもしれない可能性を、勇気を、作者は、最後の最後に置いた。
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