ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2010年08月05日
 蒼太の包丁 25 (マンサンコミックス)

 グルメ・料理マンガには長期連載化していく作品が少なくはないが、大河のようなドラマを充実させている例は多いと言い難い。それというのはたぶん、ショートなワン・エピソードを基本に、文字どおり、回を重ねることが第一義となっているものが大半だからであって、幅の広い時間進行は結果的に生じているにすぎないためなのだと思う。つまりは当初の設計図にそってつくられた構造に建て増しの物語が与えられているわけで、作中人物の性格に、成長とはべつの意味で、当初の設定とのぶれが出てしまうことが珍しくないのもそのせいだろう。こうした皮肉をおそらくは意図的に回避すべく、作中人物同士の相関性と背景のストーリーを厚くしているのが『蒼太の包丁』である、というのは以前にいったような気がするのだけれども、いやじっさい、25巻に入った現在も、主人公の成長や周囲の感情、環境のゆるやかな変化に、最大の特徴がある。「富み久」の親方は、年末も忙しいというのに、どのような思惑があってか、花ノ井が自分で開いた店「花ノ井」の手伝いに蒼太を行かせる。それもまた、蒼太の、料理人としての、新たな糧となっていくのであった。というのが、ここでのおおよそである。カウンター越しに並び、互いに包丁を握った花ノ井と蒼太のコンビネーションは、正しく今までのストーリーがあってこそであるし、主人公をめぐる女性たちの対応も同様に、過去の積み重ねによっている。単発のエピソードを見るなら、読み手を感動させるために、作中人物を泣かせる、こういった手法のあざといものもあり、そちらに関してはさほど褒めないのだったが、「花ノ井」と競合する「松井」の大将と花ノ井の対面にはまったくべつの緊張があって、なかなかに印象深い。男と男の、職人と職人の、歳の差に関係のないプライド、言葉では通じ合えない部分が、よく出ている。

 24巻について→こちら
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