ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2010年07月11日
 疾風・虹丸組 1巻 (ヤングキングコミックス)

 ときとして人は自分を中心にした世界を探せる。このような独我論において、他人は自分にとって都合のよい解釈でしかないのに、どうしてだろう、孤独からの安全圏だけが見つからないのは、おそらくそんな世界などどこにもないからであって、たいていは錯誤か徒労に終わる。

〈わかってんよ 潤……わかってるけど どーしてもオレはそんな風に考えちまう…エイト達がオレと一緒に居てくれんだって もしかしたら…………オマエがオレと友達で居てくれっから…だから オレとも居てくれんじゃないかってよ…〉

 すべての魂は寂しい。だからこそ魂には救いがあって欲しい。そのための祈りではなく、戦いを描くこと、これが桑原真也と佐木飛朗斗の決定的な違いだと思う。ついに桑原が単独で不良少年たちの闘争域に踏み込んだ。『疾風・虹丸組』の1巻である。

 その頃、虹川潤と羽黒翔丸の二人を中心に結成されたチームにまだ名前はなかった。ただ他の暴走族と同様、誰からも抑圧されたくない、そして伝説のチームである関東・無限郷が残した遺産を目指し、街の頂点へと駆け上がろうとするのだったが、翔丸は自身の不安と狂騒を抑えきれず、少年院に送り込まれてしまう。かくして、トップに立たざるをえなくなった潤は、二人の名をとってチームを虹丸組と名づけるのだった。

 物語の柱は、翔丸の不在を負った潤が〈オレ達の目的はナラシナ全制覇して自衛隊の敷地に埋まってる「遺産」を手にすることだ〉といっているとおり、ひじょうに簡潔で明解なものである。「無限郷の遺産(インフィニティ・ゴールド)」をめぐり、同じ地区に遍在するチームが互いに互いを敵視、血塗れの抗争劇を繰り広げていくのだ。

 いくつかのアイディアを、この手のジャンルの歴史から引っぱってきていることは、序盤で「無限郷の遺産」の存在を印象づけるにさいし、作中人物に〈なんか そんなマンガ見た事があるぞ〉というエクスキューズを言わせているように、自覚化されているのだけれども、重要視されるべきは、そうした枠組みのなかでいったい何が起こっているのか、だといえる。

 すくなくとも1巻の段階では、強さとは何か、ではなくて、弱さとは何か、を問おうとするかっこうへと作品の内容は傾いている。それをあきらかにしているのが、羽黒翔丸の人格に対して向けられる〈アイツはなんでも“貸し借り”で考えやがる…自分一人的(マト)になってオレ達への借りをチャラにしようってつもりかよ…〉こういう評価であるし、虹丸組を事を構えることになる双騎龍団(ツイン・ドラグーン)や紅蓮(アグニ)の内部事情を掘り下げていく手つきである。すなわち、主人公である潤の強さが虹丸組を格上げすればするほど、彼との対照に配置された人間の悲しさが目立たされている。

 そこにはもちろん、ヤンキー・マンガの文脈において、高橋ヒロシが『キューピー』で指した我妻涼の影を見ることができる。とくに潤と翔丸の関係がそうさせるのだったが、いったん狭い世界の外に出、そこから戻ってくる者と、狭い世界にとどまり、約束を果たそうとする者、双方の立場が役割上、逆転している点は注意されたい。いうまでもなく山本隆一郎の『サムライソルジャー』が抱いている構図とも反対になっている。いやまた、加瀬あつしの『カメレオン』におけるキュウと美島ジュンや、藤沢とおるの『湘南純愛組!』における神堂寺郁也や阿久津淳也などのパターンとも似て非なるところがある。後者に関しては、翔丸と少年院で知り合った紅蓮の頭、美剣號の分担がたしかに近しい。

 いずれにせよ、『疾風・虹丸組』では、潤のカリズマよりも、翔丸や、双騎龍団の総長である板東妻吉、紅蓮で副総長をつとめる柊高志、総長である美剣たちの、負のオーラが、作品の輪郭をことにはっきりとさせているのであって、それはたんにワキにいる人物のほうが魅力的に描けているというレベルとは異なる。

 あくまでも潤との対照になっていることがキーなのだ。柊の弱さを見、彼を庇おうとする美剣の〈オマエは 自分の為に嘘ついた事は一ぺんも無いもんな……… オレはもっと強くなる!! オマエにこれ以上 哀しい嘘をつかせない為にもなッ〉こうした男気は間違いなくそれ、つまり潤との決闘を通じて浮上している。

 弱さとは悲しみである。暴力とは恐怖である。『疾風・虹丸組』のエモーションが、この言い換えのレトリックに生じていることは、疑うべくもないだろう。だが、悲しみや恐怖で他人を制せられたとしても、本質的な孤独は消えない。決して私欲を生きようとしない潤が主人公とされ、いささか強すぎる理由は、たぶんそこに託されているのではないかと今は読める。

・その他桑原真也に関する文章
 『姫剣』
  2巻について→こちら
  1巻について→こちら
 『ラセンバナ 螺旋花』(設定協力・半村良『妖星伝』)
  3巻について→こちら
  2巻について→こちら
  1巻について→こちら
 『[R-16]』(原作・佐木飛朗斗)12巻について→こちら
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