ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2010年07月04日
 「薬師寺」 / 堂本剛 初回盤 【DVD+CD】

 堂本剛のアポリアは、きわめてアーティスティックであろうとするアプローチが、ジャニーズという資本やイメージをバックにしなければほとんど維持することができず、したがって真にアーティスティックであるとは一般的に見られない、そのいかんともしがたいところに生じているのだったが、しかしそれがある種の異様な凄みを彼のステージに与えていることは、この、昨年(09年)の7月11日に奈良の薬師寺で行われたパフォーマンスを収めたDVD『薬師寺』から確認できる。

 独特な世界観、という便利な言い回しがある。たいてい、こいつはちょっと形容しがたいぜ、と困らされるような場合に用いられるのだけれども、キーボードの弾き語りによってショー全体の幕を開ける「ソメイヨシノ」は、まさしくそれだと思う。必ずしも取っ付きやすいとはいかないメロディや歌詞が、凝った工夫もなく、剥き身に近しい状態で再現される。あくまでもスタティックな楽曲の魅力はそこで、堂本がすぐれたシンガーであることの声量に、まったく依存してしまい、大仏を背後にして設置された野外のステージは必然、開放感に溢れていながらも、どこか悲壮でシリアスな響きばかりが強調的になっていくのだ。これは7月10日の演奏をパッケージした初回限定盤に付属のライヴCDにおいて、つまりは映像を抜きにしたとき、密室状の息苦しさにすら似てくる。だがやはり、そういった複雑なねじれの構造こそがこのアーティストの本質であって、他には替えられないインパクトを担っているのだとしか言いようがない。

 空の突き抜けたコンディションに相応しいカタルシスを持っていくのは、むしろ、堂本がベースを携え、ジャム・セッションふうに展開される2曲目のインストゥルメンタル・ナンバー「美我空」以降であろう。ギターに名越由貴夫、ベースに吉田健、ドラムに屋敷豪太などを迎えた布陣は、山折り谷折りに堂本が先陣で刻むコントラストを繊細かつダイナミックなタッチでフォローする。スティーヴ・エトウのパーカッションが立てる金属性のリズム、そして十川ともじのキーボードが、オーガニックな印象の高まった演奏に機械質の触感を加えているのも、演奏を躍動させるのに必要な効果を上げており、3曲目の「Let's Get FUNKASY!!!」で、すべては跳ねっ返りのヴァイブレーションへと変調、すばらしい昂揚を描き出すのである。

 続いてもファンキッシュな4曲目の「Love is the key」はもちろんのこと、ラスト・ナンバーにあたり、堂本がギターを鳴かせる11曲目の「和FUNK JAM NARA STYLE」までを通じながら、顕著にあらわれているのは、のちに発表される「音楽を終わらせよう」へと繋がった道のりにほかならない。剛紫名義のアルバム音源では、ひたすら鬱屈していた5曲目の「TALK TO MYSELF」が、このようなモーメントにあっては何よりもやさしさとあたたかさを伸びやかにし、〈リアルを… / 光りを…〉というリフレインに真新しい感動を与えている点に注意されたい。

 それこそ「TALK TO MYSELF」に委ねられた〈リアルを… / 光りを… / 真っすぐに / 君に捧げたいんだけど時代はそうさせないかも知れないな…〉の呟きは、「音楽を終わらせよう」における〈どうしたんだい / 時代よ…〉の問いかけと密接であるだろう。そしてそれは、ソロ・デビュー曲である「街」のあの〈愛を見失ってしまう時代だ / 誰もが持っているんだ / 自分を守り生きていく時代だ / だからこそ僕らが / 愛を刻もう傷ついたりもするんだけど / 痛みまでも見失いたくない〉という決意を、たしかに引き継いでいるのではなかったか。

 今回のセット・リストで特筆すべきは、6曲目に「ORIGINAL COLOR」が、9曲目に「街」が、要するに堂本剛のディスコグラフィのなかでも初期の代表曲が披露され、近年のまったく方向性が異なったナンバーとも、違和感なく、溶け込んでいることだ。どちらも堂本のメロディ・メイカーとしての才能が突出している楽曲であって、多少のアレンジを入れてはいるが、かつてそれらに託されていたテーマが、今なおいっさいの切実さを失っていないことだけは、青くささが雄弁を得たかのようなコーラスに証明される。まず間違いなく証明されている。映し出される景色の美しさ、カメラ・ワークも相まって、思わず胸の奥から込み上げてくるものがあった。

・その他堂本剛に関する文章
 『RAIN』について→こちら
 コンサート『ENDLICHERI☆ENDLICHERI CHERI 4 U』(09年8月19日・国立代々木競技場第一体育館)について→こちら
 『空 〜 美しい我の空』『美 我 空 - ビ ガ ク 〜 my beautiful sky』について→こちら
 『I AND 愛』について→こちら
 『Coward』について→こちら
 「ソメイヨシノ」について→こちら
 [si:]について→こちら
 『僕の靴音』について→こちら
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | 音楽(2010年)
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