ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2010年06月10日
 奥嶋ひろまさの『ランチキ』は、スマッシング・パンプキンズのTシャツを着たヤンキーとブラック・フラッグのTシャツを着たヤンキーがタイマンを果たす、というようなマンガである。めちゃくちゃな解説から入ってしまったが、まったくの嘘ではないよ。けれどもまあ、たしかに本題とはあまり関係ないのであって、作品の魅力をいうのであれば、不良少年の成り上がりを最優先のテーマとしている点にあるだろう。もちろん、ヤンキー・マンガにおいて成り上がりは必ずしも珍しいトピックではあるまい。しかし、現在この手のジャンルでは、あらかじめ才能の発揮された人物が、トーナメント形式で実施される抗争劇のなかで、シード枠的に優遇されているのが主流となっているのに対し、『ランチキ』の場合、それこそボトムに等しい位置の人物が一念発起、ちょうど自分で自分の可能性を試すかのように、向こう見ずなトライを、たとえ力及ばずとも挑んでいくところに、つまりは比較上の個性を述べられるのだし、じっさいもっとも大きなエモーションを掴まえているのである。

 ある意味では旧いパターンにあたるのかもしれないが、そこが良いよ、とも感じられるのは、少年の少年であるがゆえに未熟な思い込みを、立派なエレメントにし、物語のドライヴに白熱を加えているからなのだった。さて、作品は3巻に入り、本格的に高校生活編の幕を開く。親友であるキム(金田鉄雄)とチーム「シカバネ(鹿へんに金)」を組んだランチキ(鹿野乱吉)は、不良校として知られる降威高校に入学、ほとんど無名の状態から成り上がり、周囲に認められていこうとする。こうしたストーリーに関して、着目されたいのは、2巻時点のエピソードにより、降威高校のトップであり上級生の椿屋や亀山社中学出身ですでに一年最強とされている五島に高く買われたおかげで、周囲の評価が変化していることを、ランチキ自身は好ましく思っていない点にほかならない。同級生の視線を背に〈くそ…俺らを通して椿屋さんや五島を見てやがる…〉のを気に入らないのは〈俺は自分にしか出来へん青春を過ごすために降威高校に入学したんや(略)でもこのままじゃ椿屋さんと五島の名を借りただけで 中学3年間と全然変わらん高校生活になってしまうぞ〉と察せられるためで、他力には頼るのではなく、自力で実績を残すべく、「シカバネ」の二人は、ケンカの強さで知られる双子の種田兄弟との決闘を望む。要するに、はからずも手に入れたシード枠的なポジションを返上するところから高校生活の、新しい日常をスタートさせているのだ。

 これでランチキに見事な腕っぷしがあればカタルシスは単純化されたのだけれども、そうはなっていない。キムはともかく、ランチキときたら、相も変わらずぼろぼろ、決して強いとはいわれない。だが、それを『ランチキ』というマンガにとっての要所とすべきだろう。つまり、主人公の惨めでもあるような姿と悪戦苦闘とが、弱い自分を塗り替える、上書きしようとすることのパフォーマンスになっているのであって、〈部活にも勉強にもピントが合わんかった俺には もうケンカしかないっス 自分の中の劣等感や焦燥感 憧れや嫉妬を掻き消すためには闘うしかねぇ 今の俺には何もないけど どつき合いの中でだけ 何か得れそうな気がするんスよ〉という、子供じみてはいるものの、いやだからこそ初期衝動と覚しきモチベーションに随時具体性をもたらしている。

 2巻について→こちら
 1巻について→こちら
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