ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2010年06月06日
 なにわ友あれ(12) (ヤングマガジンコミックス)

 旧来より不良少年を題材にしたマンガは、軍記物、国盗り合戦のヴァリエーションに近しくあろうとする側面をたしかに持ってはいるのだったが、80年代頃から全国制覇の野望はむしろ作品の説得力を削ぐものとなってしまい、90年代頃には地区予選程度に収まった規模のなかに青春の群像とイコールであるかのようなモラトリアムを描く手法が主流化した。しかして現在もこの傾向を逸していないといえる。

 ここで問題となってくるのは、じっさい、軍記物、国盗り合戦のヴァリエーションとして現代における不良少年のフィクションを見たとき、たいていはさほどおもしろくないと感じられてしまうことだろう。モラトリアムのテーマは、さしあたり置いておく。

 すくなくとも、奇襲や武器の使用がジャンル上の倫理(正々堂々のタイマンがいちばん偉いの理屈)によって規制されているせいで、高い戦略性は求められなくなり、登場人物のパラメーターも結局はケンカのつよさのみに振られているのだったが、その要素を男性的なスケールの大きさに変換し、演出していくさい、ポエムの抽象性にコマを割き、本質を目くらますことばかりに聡くなってしまったのである。当然、それを技術の洗練と見なしても構わないのだけれど、個人的には、ちょっと説得されにくいせこさに目がいってしまうので、弱る。

 さてしかし、軍記物、国盗り合戦のヴァリエーションとして不良少年が生きられるマンガをのぞむとすれば、今日もっともすぐれいているのは、間違いなく、南勝久の『なにわ友あれ』ではないか。とにかく、11巻からこの12巻(そして次巻)へと続く展開には、繰り返し読み、確認したくなるほどの駆け引き、えげつなさも上等の戦略性が組み込まれているのであった。

 かねてよりグッさんは、自分たちスパーキーレーシングの戦術を「桶狭間の戦い」に喩えているけれども、それはつまり、奇襲や武器の使用をまったく厭わない態度を指しているといってよい。もしかしたら、いくつかの表現を過渡に暴力的と非難すべきなのかもしれないが、そもそも軍記物や国盗り合戦に死屍累々は付きものなのであって、むしろポリティカリー・コレクトな誤魔化しを除けていった結果、そのようになっているのだと思われたい。

 不良少年たちを、戦国武将の立場に置き換え、考えてみても、その扱いはなかなかに見事である。友情や連帯、利害の一致、上下の関係、これらをごっちゃにせず、線引き、ディレクションが巧みに機能しているので、登場人物の行動理念に納得のいくものが備わっている。

 だいたい、今やスパーキーレーシングでマーボとともに特攻隊長をつとめるハマダにしても、参謀役を任されているサトシにしても、前シリーズにあたる『ナニワトモアレ』では敵役に回ることもあったが、そこから別段ポリシーを違えたわけではなく、グっさんにスカウトされたことの意味合いを正確に把握しているため、言い換えるならば、自分の能力を生かす場を与えられたことに対して忠実なので、チームの前進に尽力するのだし、これはカワチンなどの『なにわ友あれ』で新規に登場し、オーディションされた人物たちにもいえる。

 プレストやハッシュレーシングとの三つ巴において、個々のリーダーが持っているカリズマ、アウェイやホームであることの地理的条件、そして機動力(自動車)が、重要な条件を果たしているのも、さりげなく、うまい。攻防の、勝敗の、現実的な理由付けとなっているのだ。

 以上は、あらかじめ述べたとおり、軍記物、国盗り合戦のヴァリエーションであることに関しての評価であって、個々人のビルドゥングス・ロマン、モラトリアムのテーマを踏まえるとすれば、べつの視点が得られる、このようなつくりもまた『なにわ友あれ』の魅力を補っている。

 それについては、やはり、主役級の位置に置かれたテツヤの成長、さらには彼の友人であるパンダのパーソナリティにかかっている。いうまでもなく、『なにわ友あれ』のリアリティは、90年代の過去を選び、実在の都市を舞台としていることも含め、本質的にはクルマとオンナの存在によって生じている。男性的な欲望を男性が持ちえている点に描写されているのである。そしてそのパターンにもっとも正直なイメージとしてあらわれているのが、テツヤとパンダになるだろう。『ナニワトモアレ』では、グっさんが負っていたポジションでもある。

 とくに、ここにきて、今までのストーリーを通じ、まさしくコメディ・リリーフをやらされてきた感のあるパンダの、意外な活躍ぶりには、彼の見方を変えるものがある。いやいや、駄目人間なのは相変わらずなのだったが、それが時と場合に応じて、じつに、やる。惨めさと切なさとシンナーだけの野郎ではなかったのかよ。たんに巻き込まれたのであれ、株を上げるとは、なるほど、こういうことだ、を地で行っている。

 10巻について→こちら
 9巻について→こちら
 8巻について→こちら
 7巻について→こちら
 5巻について→こちら
 4巻について→こちら
 1巻について→こちら 
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