ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2010年03月07日
 肉の唄(3) (ヤングマガジンKC)

 コウノコウジが『肉の唄』というマンガにプロレスとして描き出そうとしたのはきわめて高度な表現である。だがそれは不首尾に終わったといわざるをえない。しかしまったく無視されてよいものではないだろう。この完結編となる3巻(要するに『ヤングマガジン』本誌から別冊や月刊に発表の場を移してから)の、およそ半分を費やし、展開されるクライマックスには、作者が意識的にある様式の過剰化をはかり、それによって目新しいフレームの今にも生じそうな手応えが、未遂ではあるものの、はっきり感じられる。大げさかな。自分ではそう思わないけれど、話半分に取ってくれて構わない。総合格闘技の世界を追われ、成り行きから「新世紀プロレス」の門をくぐることになった一色亮太であったが、真剣勝負(シュート)を志していた頃の記憶を拭うことができず、あくまでもエンターテイメント性を競うプロレスの、その稽古に熱を入れられない。マッチメイカーである涼子に才能を高く買われ、期待されながらも、たしかなモチベーションを得られないまま、とうとう彼のデビュー戦が決まろうとしていた。相手は、アマチュアレスリングの日本代表候補を経、プロレス入り、いちやく人気選手に駆けのぼった藤沢賢太郎である。一色の実績と浅からぬ因縁を持つ藤沢は、万全を期し、執念を傾け、リングに上がろうとする。はたして強敵である藤沢との勝負の最中、ついに一色はプロレスの真骨頂と出会うことになるのだった。これがたとえば、単純に藤沢をくだし、試合に勝利した結果、めでたしめでたしとなる物語であったならば、いっさい驚かされたりはしない。だがそうなっていない。あらかじめ一色は、負け役に徹せねばならず〈この試合のフィニッシュ技はプリンスドライバー フィニッシュの時間は試合開始後二十分過ぎ それだけは絶対に守るのよ!〉と、敗北しなければならない旨を涼子に伝えられている。こうした制約を前に、どうやって彼は面目躍如するのか、その、肉体と心理の複雑な葛藤を、プロレスの構造を通じ、直接に描こうとすることが、作品の、最大の見せ場をつくっていき、表現の、奥行きを、ああもうすこしですごいことになりそうだった、という惜しさへと深めているのである。ただしそこまでの助走が長かったのはたしかであって、おそらくは急ぎ足に結末を迎えざるをえなかったことが、はからずも功を奏し、終盤の迫力や緊張をもたらしている感は否めない。

 1巻について→こちら

・その他コウノコウジに関する文章
 『アウト・ロー』(原作・木内一雅)13巻・14巻について→こちら
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