ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2010年02月24日
 ねえ君、君がどれだけ尽くそうが、家族から見捨てられ、友情に裏切られ、恋人が離れていってしまう。それでも絶対に裏切らないし、裏切れない。間違いがないと信じられるものが残されているとき、いったい何と呼べばよかったのか。

 前巻で、作中においては完全無欠に等しい仁と義郎がまさか命を落としかけたその間一髪をアキラが救ってみせたのは、『仁義S〜じんぎたち〜』屈指の名場面に挙げられるだろう。じっさいそこでの立原あゆみの筆致には、突然放り込まれた手榴弾を掴み、迷わず、投げ捨てる主人公の姿からは、ひさしくなかったほどの興奮を得られる。そうしたハイライトを経て、関東一円会を割った六星会との抗争は新たな局面へ入ると同時に、アキラや大介、守の新世代たちの台頭は著しくなる。一方、出世するにつれ、彼らを取り巻く人間関係にも、もちろん女性の存在を含めて、変化が訪れていた。

 この12巻には印象的な箇所がある。それは江美に去られたアキラが、花いちというスナックのママさんと差し向かい、相棒であるドクター大内のことつについて交わす、次のような会話である(p97-98)。〈奴もバカだよな 大人しく医者やってりゃいいものを 何とち狂ってやくざとの二足のわらじ〉とアキラが述べるのに対し、ママさんが〈アキラを愛してるんじゃない〉と言う。これをアキラは〈やめてよ ゲイかい? 奴は〉とはぐらかすのだけれども、ママさんは〈そんな言葉でひとくくりにはできないわね 男が生きてゆくにはね 女ばっかじゃしょうがない 男がいなくちゃだめなのよ 女は男だけでも生きてゆける〉というふうに諭すのだった。こうした二人のやりとりはその前段(p-95)で、甲田に対する長峰の裏切りを思い、アキラが〈………何でもありなんか やくざは〉と言うのを聞き、大内が〈安心しろ 俺は アキラを裏切らん〉と答えるのを受けているわけだが、そこには『仁義S』のみならず、前作『JINGI』から、いやあるいは作者のヤクザ・マンガに脈々と連なる一つのテーマが見え隠れしているように思う。

 いわずもがな、『JINGI』とは、極左の天才テロリストであった義郎が、一介のちんぴらであった仁のなかに、いまだ自分の知らない世界を見、生き様をともにしてゆく物語であった。こうした基本線は『仁義S』にも継承されている。要するに、極道のアキラとエリート医師であったはずの大内の関係が、それ、である。仁と義郎の成り上がりが、お互いがお互いに命を賭すのも厭わなかったほどの信頼によって達成されていたのと同じく、アキラと大内のサヴァイバルも、彼らの名状しがたいコンビネーションを通じて果たされているのだ。

 さらにできるなら立原のヤクザ・マンガを一望されたい。驚くべきことに、その作品のほとんどは、『本気!』の本気と次郎を例に出すまでもなく、まさしく裏切らないバディを持った主人公が生き残る、かのような構造を持っていることに気づかされる。必ずしもヤクザ・マンガに当てはまらない『当選』にしてもそうではなかったか。反面、『花火』や『地球儀』、『弱虫』、『恋愛』などでは、バディを持たない孤独な主人公が、その逞しさとは裏腹に、はかなく散る、もしくは生死不明になってしまう。また以前にも触れたとおり、それらの主人公の大半が、肉親から見捨てられ、あらかじめ居場所をなくしてしまっていたことも忘れてはならない。

 たしか(うろ覚えになってしまって申し訳ない、いずれ該当箇所を見つけたら直接引用したいが)極道は自分のために捨て身となれる者が5人いれば全国を制覇できる、というような格言みたいなものが立原の過去作にはあるけれど、それもつまりは、絶対に裏切られることのない繋がりをいかにして望むか、を意味しているに違いない。

 そして、おそらくその繋がりは家族とも友情とも恋愛とも違う。似て非なる。あえて名指すとすれば、仁義、ということになるのかもしれない。仁や義郎は、アキラたち新世代のことをJINGISと呼ぶ。仁義たち。マンガの題名からメッセージを探るのが可能だとしたら、はたして真のJINGIを有した人間だけが争いのなかで生き残ることになるのだとしても不思議ではない。

 11巻について→こちら
 10巻について→こちら
 9巻について→こちら
 8巻について→こちら
 7巻について→こちら
 6巻について→こちら
 5巻について→こちら
 4巻について→こちら
 3巻について→こちら

・その他立原あゆみに関する文章
 『涙星〈アース〉チンピラ子守歌』1巻について→こちら
 『本気』文庫版
  9巻について→こちら
  8巻について→こちら
  7巻について→こちら
  6巻について→こちら
  5巻について→こちら
  4巻について→こちら
  3巻について→こちら
  1・2巻について→こちら
 『本気!〜雑記〜』第1話について→こちら
 『恋愛』
  5巻について→こちら
  4巻について→こちら
  3巻について→こちら
  2巻について→こちら
  1巻について→こちら
 『極道の食卓』
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  5巻について→こちら
  4巻について→こちら
  3巻について→こちら
  2巻について→こちら
  1巻について→こちら
 『ポリ公』
  4巻について→こちら
  2巻について→こちら
 『月の教室』について→こちら
 『喰人』1巻について→こちら
この記事へのコメント
はじめまして。


>極道は自分のために捨て身となれる者が5人いれば全国を制覇できる

私もウロ覚えですが、『JINGI 仁義』で神林仁が子分たち3人に語った台詞だったと思います。
「たった5人すか」「馬鹿、たったじゃねえ、5人もだ」「だったら会長はあと2人で天下とれますね。俺たち3人は命捨てますから」
みたいなやりとりだったような。
Posted by 御座候 at 2011年04月15日 02:26
はじめまして。コメントありがとうございます。

あーそのシーン見覚えあるかもです。いずれ確認したいです。あと「本気サンダーナ」にも同様のネタがあった気がします。
Posted by もりた at 2011年04月16日 14:08
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