ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2010年02月11日
 ナンバデッドエンド 6 (少年チャンピオン・コミックス)

 いうまでもなく、小沢としおの『ナンバデッドエンド』(当然、前身にあたる『ナンバMG5』のことも含めたい)は、ヤンキー・マンガである以上に、すぐれた学園ドラマであるのと同時に、すぐれた家族劇なのであって、本質的には、複雑に入り組んだ愛情と葛藤を期限付きだからこそ価値のある青春もしくはモラトリアム下の人間やコミュニケーションに託しているのだが、それをきわめて平易に、なおかつエンターテイメント性のひじょうに高いレベルで仕上げてしまっているため、むしろ正当な評価を受け損なっているんじゃねえの、と思うよりほかない。たいへんひらかれた内容であるし、もっと大勢に読まれてもよい作品である、というのは過去にもさんざん書いた。

 いやしかし、それにしてもじっさい、この6巻に描かれている光景の、適度に戯画化された現実の、日常生活の、なんて可笑しく、そして痛ましいことかよ。次々と県外の不良少年たちをのし、特攻服の猛者として、広く存在を認められてゆく一方、ふだんはごく世間並みの高校生として、学業はもちろんのこと、恋愛や部活動、生徒会の運営にいそしむ主人公、難破剛であったが、ついにその、是が非でも家族にだけは伏せておきたかった事情が、兄の猛に知られてしまう。すでに秘密を共有している妹の吟子が〈市松で全国制覇目指してるハズの兄ちゃんが 実は白百合の生徒会長だったってだけでも みんな気絶モンだぜ… 兄ちゃん これマジで カマだのホモだの言われるくれえじゃ済まねぇぞ…〉と心配するほどの、あるいはそれ以上の破滅が、とうとう剛のもとに迫ってくるのである。

 たぶんというか、当然というか、ほとんどの人間が、学生時代に、剛のような特殊な境遇を生きてはいない、生きてはこなかっただろう。にもかかわらず、彼にもたらされるピンチが、スリリングであればあるぶん、その苦悩が生々しく、著しい説得力を持つのは、まさしく作者の、マンガ技術の、とくにストーリー・テリングの巧みさによっているのだけれども、同時に作品世界を統べている認識、共感可能な領域のこしらえ方が、まったく正常だからであって、すなわち青春もしくはモラトリアム下にある人間とコミュニケーションとが、じつによく描け、丁寧に機能しているからにほかならない。それこそ、こうしたジャンルにおいてスペクタクルの担保たるケンカや抗争劇など、ヤンキイッシュな局面とはべつの部分で展開されるドラマに目を凝らされたい。たしかにそれらは、適度に戯画化されてはいるものの、どこにでもありふれた学園のひとコマ、家族のワン・シーンのように見られる。

 たとえば、修学旅行先での問題行動を咎められた剛が、停学明け、学校に復帰してからのくだり、半ばギャグに近しいテンションで和気あいあいが繰り広げられる場面からは、いっさいといっていいぐらい、過剰さを持て余した気配が排せられている。主人公の立場になって考えるのであれば、束の間だとしても自分がしりぞいていた世界に、ようやく戻ることができたとき、かつてとは違う場所のように感じられる変化があたっとしたら、どうだろう。おそらくは、寂しい。居場所の定かではなくなってしまったことが、寂しい。これは、時や場合、程度の差こそあれ、誰しもが経験則として知っている不安に等しい。こうした不安を踏まえたうえで、しかしそれでも、ねえ君の居場所がなくなることはないんだよ、と言わんばかりの健全さを、繰り返しになるが、半ばギャグに近しいテンションの和気あいあいに繰り広げることで、何気ない日々の積み重ね、そこまで積み重ねられた日々のありがたさが、しっかり示されており、だからこそ、それが失われることのこわさもまた如実になっているのであって、〈停学ぐらいで済んでよかった… やっぱ白百合はいいな 白百合にはオレの大事なモンがいっぱいある あと8ヶ月〉という剛の実感に、しかとした手応えの加わっている点が、つまり『ナンバデッドエンド』の、すばらしく達者なところなのだ。やがて卒業後の進路を、仲間と話し、悩むあたりもそうだよ。

 そしてそれはさらに、作品のもう一つの柱であるヤンキイッシュな局面と横並び、対照されて、遺伝と環境のノルマ(これについては以前にも述べたし、いずれあらためたいと思うのだったが、広島編におけるヤクザの息子の鋼一は、まさか某二人組アイドル・グループに由来しているのか、剛のオルタナティヴであると解釈することもでき、その広島編の解決自体が、鋼一と光一というライヴァルの名前の相似性にうかがえるとおり、『ナンバMG5』での横浜編の反復だとも解釈される)と抗い、もがき、ふんばり、自立しようとする主人公の姿に、フィクションとしての類い希なる深みを持たせることになる。

 にしたってまあ、『ナンバMG5』のラストに示唆的だったわけだけれども、キー・パーソンはやはり、関東最強でありながらニートと呼ばれるのをおそれる男、猛か。三下の態度から瞬時にして市松高校の上下関係を見抜き、剛をかばおうとする伍代や大丸でさえ躊躇なくぶん殴る、そのポテンシャルは、おっかなく、一目置くしかねえ。そいつがそいつなりの、きっちり筋の通ったロジックで立ちはだかるんだからな。ましてや、責められる剛にしても、自分の行いが必ずしも正しかったとは強がれない。こうして訪れたデッドエンドをいかにしてブレイクスルーしてゆくのか。ここに描かれる学園ドラマと家族劇は、ますます見逃せない境地へ達しつつある。

 3巻について→こちら
 2巻について→こちら
 1巻について→こちら

 『ナンバMG5』
  18巻について→こちら
  17巻について→こちら 
  16巻について→こちら
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  3巻について→こちら
  1巻について→こちら
  1話目について→こちら
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