ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2006年02月28日
 蒼太の包丁 10 (10)

 いよいよ経営が立ちゆかなくなり、北海道の実家『きたおか』が売却されることを父から聞かされた蒼太は、家業を継ぎ「故郷を元気にするような店をいつか作る」という一心で頑張ってきた、その励みとなる支えを失いかけるほどのショックを受ける。しょげる蒼太に周囲の人々は優しい。『富み久』の常連が持ちかけてきた投資の話は、蒼太を元気づけるが、京都から修行にやって来ている同世代のライバル花ノ井は、〈どうなんやろ? 恵まれてるのを通り越して甘いんと違いますか?〉と、厳しい言葉を投げつけるのであった。花ノ井の態度は、いっけんドラマの盛り上がりに水を差す嫌な奴ふうのものであり、じっさいにべつの登場人物から非難されたりもするのだけれども、しかしこの指摘はそのまま、物語上における都合の良さをも射抜いているように思う。帰る場所が失われるというのは、じつに深刻な問題である。だが、それを回避することのできない状況というのも、たしかにある。この巻のポイントは、そうしたさいに、自分の気持ちとどうやって折り合いをつけるか、ということであろう。モチベーションを見失ってしまった蒼太にかける、元先輩青柳の台詞が、いい。〈目標が無くなっても志まで消えたわけじゃねぇんだろ?〉。時間はつねに過ぎゆくものであり、当人の努力次第ではどうにもならない事態に無力感を覚えることもある。しかし未来に目を向ければ、これですべて終わりってわけじゃあないだろ。やがて立ち直り、決意を新たに〈・・・ゼロからすべて自分の力でやり遂げればいい〉という蒼太の凜とした言葉は、〈一から身を起こすのが当たり前〉〈ぬるま湯の中からは何も生まれませんよ〉とする花ノ井の、自分を厳しく律する姿形に、一歩追いついたものとして存在しているのであった。

 9巻についての文章→こちら
 8巻についての文章→こちら
 7巻についての文章→こちら
 6巻についての文章→こちら
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ(06年)
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