ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2009年11月24日
 ゆうやみ特攻隊 5 (シリウスコミックス)

 自伝的な要素を持った『ピコピコ少年』を読むと、先般最終巻の出た『プピポー!』であったり、この『ゆうやみ特攻隊』などで活躍する少年や少女の姿には、押切蓮介の憧れが託されているのかな、という気がしてくるし、はたまたそれは、『ピコピコ少年』の、あの、すこし根の暗い主人公に思わず共感してしまう読み手にとっての、理想像にさえ見られるかもしれない。いや、すくなくとも、これを書いている自分の場合はそうだよ。あらかじめ手渡された困難のせいで、仕方なく、くじけそうになりながらも、ほんのわずかなガッツを頼りとし、友情のありがたみに支えられ、とりあえずは前へ前へ、歩みを止めず、進み続けることが、精いっぱいの希望となって、孤独な運命を変えてゆく様子に、たいへん励まされるものがある。

 絶望、絶望、絶望、いっさいの救いを奪われ、地獄の釜の中に突き落とされた姫山高校心霊探偵部の面々、辻翔平と越島かえでであったが、まさか、すさまじい拷問に息も絶え絶えであったはずの隊長こと花岡弥依の、どんなピンチにさえ決して揺らぐことのないポテンシャルが、一気に形勢を逆転させる。他方、心霊探偵部の到来によって、黒首島に持ち上がった騒動は、祭りの日に備えていた村人のあいだにも、大きな波乱を呼び起こすこととなる。禍々しい呪力を用い、村人を狂気で支配する鉄一族のカリズマにも、ついに綻びが見えはじめているのだった。以上が、5巻のだいたいのあらましであり、さあここから反撃だぞ、という段において、ことあるごとに翔平の成長を認める隊長の言葉は、やさしい。だが、〈ふふ‥こんな目に遭っても「逃げよう」の一言も言わないなんて‥‥辻‥強くなったね〉と褒められたことに、〈‥‥隊長‥隊長と比べたら 俺の強さなんてかすんで見える‥自分の無力さがもどかしい‥‥〉と感じ入る翔平の態度からは、いまだ不甲斐ない自分自身への悔いがうかがえる。少年の成長譚としての物語的な側面は、こうした関係上の機微にあらわれているだろう。おそらく、隊長の存在は、作品の内部で働いているロジックにおいて、翔平の、今は亡き姉のかわりであるような役割を果たしている。だからこそ翔平は、彼女(たち)に庇護されている事実を知るかぎり、いくら強くなったと指摘されても、かつてと同じく、守られる立場に置かれた弱みのほうを意識してしまうのである。はたして彼がそれをどう克服していくのかは、長篇化しつつある『ゆうやみ特攻隊』の重要な意義だと思う。

 ところで作品はここで、もう一人の少年、鉄萌(くろがねはじめ)にスポットを当てている。鉄一族に育ちながらも、恋人である紗由のため、家族を裏切り、心霊探偵部を島に呼び寄せた、ある意味ではエピソードの幕開けを担った人物である。彼は、〈鉄家としての自覚を持て 萌!! お前の描こうとしている人生は 所詮 絵空事だ!!〉と口撃してくる父親に対し、〈子が悩みに悩んで人生の選択をしたんだ‥‥それを気持ちよく認めてくれるのが親ってもんだろう〉と言う。生来の関係性を邪険にしてまで彼が憎んでいるのは、閉塞感や抑圧、それらによってもたらされる虚無や憂鬱と喩えられるものにほかならない。半径の小さな世界で、当人の願いと無関係に突きつけられる運命の不幸は、他のマンガでいうなら『ミスミソウ』のなかでとくに突出していたモチーフに違いないが、よくよく読めばわかるとおり、たとえば『プピポー!』や、さらには『ピコピコ少年』にまでも、共鳴音のごとく介在している。もちろん『ゆうやみ特攻隊』も等しく、それを端的に示しているのが、鉄一族と萌とのあいだにあるアンビバレンツだといえよう。

 付け加えるなら、そこに表象されている心理の囲いは、必ずしも特殊な環境にのみ起因するわけではない。時や場合、程度の差こそあれ、多くの人生が、一度は味わい、深く傷を負わせられる類のものだ。もしかすれば、本作で翔平が、懸命に抗い、脱しようとするコンプレックスも、そうしたことのヴァリエーションなのであって、派生的な問題を孕んでいるのかもしれない。しかるに、あらかじめ手渡された困難を理由にし、憐憫をねだってみせたところで、運命を変えられるだけの強さは得られまい。『ゆうやみ特攻隊』の、派手なコマ割り、ダイナミックな展開が、スペクタクルの面以外に、大きく支援しているものがあるとしたら、それはたぶん、果敢なる少年や少女が、徒手空拳の想いで、未来を切り拓いてゆこうとする勢いだろう。不可能を断定された場所からすべてを薙ぎ倒して立つ隊長の勇姿を見よ。あの不敵さはしかし、いつだったか膝を折り、倒れそうになったとき、踏み越えられなかったな、と憧れた一線の向こうに有るので、しばしばおそろしいものとして映る。

 4巻について→こちら
 3巻について→こちら
 2巻について→こちら
 1巻について→こちら

・その他押切蓮介に関する文章
 『でろでろ』
  15巻について→こちら
 『ミスミソウ』
  2巻について→こちら
  1巻について→こちら
 『プピポー!』
  1巻について→こちら
 『おばけのおやつ』について→こちら
 『ドヒー! おばけが僕をペンペン殴る!』について→こちら
 『マサシ!! うしろだ!!』について→こちら
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ(09年)
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