ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2009年11月15日
 ベインズ (講談社コミックスフレンド B)

 現在は少女マンガのカテゴリで主な活動をしている霜月さよ子であるが、福井晴敏と組んだ『C-blossom-case729-』に顕著であったように、そのタッチは田島昭宇からの影響を強く思わせる。さてしかし、この、全編オリジナルの読み切り作品集『ベインズ』では、そうした作風を、まんま少女マンガに特有のプロットに落とし込んでおり、なかなかに大胆なアプローチを見せている。が、等しい意味で、過去作にあたる『真夜中のアリアドネ』や『シーラカンス』のような、サスペンスの際立った路線を期待すると、すこし、肩すかしを食らうかもしれない。収められている三篇のすべてが、ほんとうにまっすぐ、てらいのないロマンチシズムによって支えられているのである。表題作の「ベインズ」は、絶対的な記憶力を持っているばかりに人知れぬ孤独を抱える音楽家と、彼にヴァイオリンを教えられる女子高生の恋愛を描く。絵柄や構図は不穏さをよくあらわし、作中人物の表情に色濃い影を与えている。けれどもストーリーのみを取り出してしまえば、気丈な少女の純真が、青年の隠された屈託を撃つ、という、ジャンル側の要請に丁重な応答を示したものにほかならない。もちろん、それが悪いというのではない。ヒロインである女子高生の、図々しさと一途さが裏表の、だからこそほんのちょっとのことで明るくも暗くも変わる表情が、作品あるいは恋愛そのものの説得力にまで高められているのは、あくまでも作者の細やかな筆致によるだろう。一度覚えてしまったことは二度と忘れられない青年の胸に、もっとも深く刻み込まれていたのは、いったい何だったか。画のセンスと物語の内容とが上手に一致している。不覚にも各作品の初出が単行本のどこに掲載されているのか(今これを書いている時点では)見つけられなかったのだが、続く「ライオン」のユーモアやダイナミズムは、前述の田島に加え、ジョージ朝倉や山崎さやかに学んだところがありそう。とはいえ、これも基本的な筋書きはシンプルにまとまっている。そのシンプルさに、個性と厚みを与えているのは、まちがいなく、演出の部分であって、ラストの「ROOM1/4-金欠-シンデレラ-」も同様、リッチなイケメンさんに惚れた女子大生が、貧乏を隠し、自分も金持ちを装い、猛烈にアタックする、こうしたストーリーは、決して類型を免れてはいないものの、ヒロインの心理描写にはっとする部分はすくなくない。ただし、男性サイドの気持ちがあまりよく出ていないため、都合の良さのほうが前にき、ややアンバランスな印象を受ける。
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ(09年)
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