少し前の話、小説家の長嶋有(いやブルボン小林だったっけ)が、文芸誌のアンケートで他の作家に、マンガ『キャプテン』の歴代キャプテンでは誰派か、みたいなことを尋ねていたけれど、当の長嶋はいったい誰派だったのか。もしかしたらどこかに書いていたりするのかもしれないが、目にした記憶がなく、ずっと気になっているのは、自分の場合は断然、丸井派だからである。そして経験上、丸井派の人間にはあまり出会ったときがないのを残念に思っているためだ。いや、たぶん近藤派には負けていないような気もするが、やはり多数は谷口派であり、次いでイガラシ派という感じではないだろうか(個人的に長嶋は近藤派なんじゃないかとにらんでいる)。たしかに、ストーリーがもっともドラマティックなのは谷口がキャプテンの編だし、試合内容の濃さでいうならイガラシがキャプテンの編を選ぶ。もちろん、近藤がキャプテンの編も、ついに名門校となってしまったがゆえの困難を描き、なかなかに魅せるのだった。が、シリーズ全体を通して、最重要人物というべきは、間違いなく丸井なのであって、奴ほどがんばり屋さんで、墨谷二中の野球部に身を捧げた人間はほかにいまいよ。
現在、ちばあきおの『キャプテン』が、完全版と銘打って刊行されている。すでにワイド版も愛蔵版も所有しているので、べつにいいかな、と思っていたのだが、ついつい誘惑に勝てず、また1セット揃えはじめてしまう。今回の目玉は、何といっても、連載当時の扉絵とカラー原稿がそのまま収められていることである。巻末に〈原稿の紛失等により当時の印刷物を使用しているページがございます。作中に見苦しく読みにくい箇所もありますが〉云々とあるとおり、やたらインクが潰れていたり掠れていたりするところもあるけれど、それを差し引いても、ファンには嬉しいもので、とくに扉絵は、すごい、いくつかの惹句に時代を感じさせる。いずれにせよ、もう何度目かはわからないが、この野球マンガの傑作をあらためて体験しているのだった。
今月出た二冊のうち、4巻でストーリーは、待ってました、丸井がキャプテンの編に入ってゆく。3巻の青葉学院との二度目の対決は、練習風景も込みで、そりゃあ泣けてきてしまうぐらいすばらしい。しかし丸井が3年にあがり、キャプテンになり、近藤が1年に加わってきてからも、最高に充実している。とにかく、当初はキャプテンに適切ではないと周囲に見られてしまう丸井が、持ち前のガッツで評価を翻していくさまに、惚れ惚れとしてしまう。ここでいったん、谷口がキャプテンになったばかりの頃、完全版の1巻を読み返されたい。104ページ、丸井が谷口の努力に驚き〈あれなんだな まえのキャプテンが谷口さんを選んだ理由は〉と言う。これは同じく318ページ、谷口の努力を知ったイガラシによって〈これなんだなあ…キャプテンがみんなを引っぱる力は…〉と反復される。もともとは実力の備わっていなかった谷口がどうしてキャプテンになれたのか、さらには墨谷二中の面々からなぜ絶大な支持を得るに至ったのか。そのことの説得が、繰り返し、繰り返し、物語を、前へ、前へ、進めているのである。
ただし注意しておきたいのは、谷口はあくまでも集中力の人であったということだ。それが無茶無謀ともいえるチャレンジを可能にし、まわりの人間もほとんど仕方なく巻き込まれていき、結果となってあらわれたにすぎない。一般的に、谷口の姿に平凡な少年のがんばりズムを受け取る向きはすくなくないのではないか。だが、集中力のすさまじさを評価するなら、あれはあれでイガラシや近藤とは異なるタイプの天才だったのである。丸井の場合はちょっと違う。じつは丸井こそが平凡な少年のがんばりズムをもっともよく体現している。完全版の4巻、115ページを見られたい。まだどこの馬の骨ともわからぬ近藤に対して怒りをぶつける丸井に、イガラシは〈どうして前キャプテンの谷口さんは丸井さんをえらんだんだろう…?〉と心のなかで疑問を呈す。1年近くの付き合いがあるはずなのにそりゃないぜ、という気がしないでもないが、この問い、すなわち谷口だけが見抜き、ほかの誰もが理解していなかった丸井の類い希なる資質については、春の選抜大会で墨谷二中が予想外の敗北を喫したさい、いよいよあきらかとなる。未読の方のため、くわしくネタは割らないけれども、疑わしい目を持たれていたにもかかわらず、結局のところ〈やっぱりキャプテンは丸井さんしかいないのかな……〉とメンバー全員の意見を一致させてしまうような、ひたむきな反省と勝利への執念から生まれるその行動力が、丸井をひとかどの者にしているのである。
『校舎うらのイレブン (シリーズ昭和の名作マンガ)』について→こちら
ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2009年11月02日
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのTrackBack URL
http://blog.seesaa.jp/tb/131839976
http://blog.seesaa.jp/tb/131839976
