![りぼんファンタジー増刊号 2009年 11月号 [雑誌]](https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/61ub%2BH0RzYL._SL160_.jpg)
酒井まゆの『クレマチカ靴店』は、このたび創刊された『りぼんファンタジー増刊号』に発表された新作読み切りで、続編が『ジャンプスクエア』10年1月号に掲載されるらしいから、さらなる展開があるのかもしれないし、たしかにファンタジーの色合いが濃厚であったりもするが、すくなくとも今回のエピソードにかぎっていうなら、本質的に少女マンガのイディオムをおおきく逸脱するものではない。舞台は〈科学とささやかな魔法が混在する世界〉である。そこでは、感情を持たないせいで皮肉にも「エンプティ」と呼ばれるロボットが、人間に仕え、さまざまな業務をこなしている。大富豪のアイゼンシュタイン家でメイドとして働く少女もまた、9号という名しか与えられていない「エンプティ」であった。その彼女がたった一つの願いを叶えるため、注文を受ければどんな靴でもつくってくれるという「クレマチカ靴店」の扉を開いたところから、物語ははじまる。ストーリー自体は、ひじょうにシンプルなので、くわしい内容の説明は省くけれど、アイゼンシュタイン家の御曹司であるリヒトと9号の、不釣り合いな関係が、ある種の運命を通じ、つよまっていく様子が描かれている。おそらくは根っこの部分に童話『シンデレラ』型のラヴ・ロマンスを見ることもできる。しかしながらこのとき注意しなければならないのは、両者の結びつきが必ずしも恋愛だとは明言されていない点だろう。いやもちろん、ふつうに考えるなら、恋愛以外にはありえず、わざわざ示したりするほうが無粋であるのかもしれないが、あえて確定を避けることで、ほんらい二人のあいだに横たわらなければならない階級的な葛藤は、すんなり棚上げされている。かたや人間、かたやロボット、という障害のはらわれることが、幸福な余韻をもたらしているのは間違いない。一方で、人間同士の身分差をどう超克するのかはうまくぼかされている。たとえばおしまいに近いあたり、リヒトの〈父様なら私が説得する〉という言葉は、恋愛や結婚を前提としていない以上、なぜ9号がとある秘密を隠していたのかを踏まえたさい、今後もメイドとして傍に置いておくという約束でしかないふうにも読める。だとしたら、状況は一変もしていない。にもかかわらず、すべてが前途洋々に見えてしまう錯覚が、ハッピー・エンドの形式を担う。はたして作者がどこまで意図しているのかは知れないが、結果的にそうなっている。
・その他酒井まゆに関する文章
『MOMO』
3巻について→こちら
1巻について→こちら
『ロッキン★ヘブン』
8巻について→こちら
7巻について→こちら
6巻について→こちら
4巻について→こちら
3巻について→こちら
2巻について→こちら
1巻について→こちら
