ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2009年10月13日
 近キョリ恋愛 5 (KCデラックス)

 いいな、いいな、恋愛っていいな、である。たとえどれだけつらくきびしい目に遭い、泥沼につっこんだ片足を引っ張り上げてはもう一方の片足を泥沼につっこむような面倒を引き受けることになったとしても、恋がそうさせるのであったら仕方がない。

 ところで、どうして自分がこう、少女マンガを好きなのかといえば、しごく明快に、ラヴ・ストーリーを読みたい、という欲望を持っているからであって、いやそれ以外の理由もあるにはあるが、やっぱりロマンスの魅力がおおきい。もちろん、ラヴ・ストーリーにも、すぐれたものとそうではないものがあるけれど、みきもと凜の『近キョリ恋愛』は、もれなく前者に入るだろう。たしかに、ヒロインのゆにを筆頭に、作中人物たちの素っ頓狂な言動が、他との差別化を告げるほどのクセとなっており、次々に繰り広げられるユーモラスな展開が、まったく飽きさせない起伏へとつながっている。むしろ、男性教師と女子生徒の秘密めいた関係を軸とし、そこに過去の因縁や横恋慕が絡んでくる物語自体は、紋切り型だとすらいえる。が、しかし、すべてを総合的に見たとき、ロマンス以外の何ものでもないまばゆい輝きに、作品は、間違いなく、包まれている。

 感情を表に出すのが苦手な天才少女ゆに、そしてイケメン教師で彼女の担任をつとめる櫻井ハルカ、二人のラヴ・ストーリーも、5巻に入り、スタートの頃とはだいぶ様子が変わってきている。両想いとなって付き合いはじめたはいいが、教師と生徒の違いから、それを伏せておかねばならない、といったところに、かつてハルカの恋人であった滝沢美麗が登場し、ただ秘密を守っていればよかった関係に、動揺を与える。そうした困難もようやく乗り越えたばかりだというのに、またあらたな騒動が、二人の気持ちを試すかのように持ち上がってくるのである。

 引き金は、ハルカの幼馴染みで、現在は人気モデルとして活躍中、しばらく海外に渡っていた小南あずさの、突然の帰国であった。ゆにの高校に転校してきた彼は、今でも初恋の相手である彼女のことを、忘れられないでいる。当然、ゆにに対しても自分と同じ気持ちであって欲しい。だが、じっさいに再会してみると、どうやら彼女にはほかに好きな人間がいるみたいだぞ、と勘づき、そこからハルカの存在に突き当たり、さらには彼からゆにを奪還しようと目論む。すなわち、前巻までの、ゆに、ハルカ、美麗の三角関係が、ハルカ、ゆに、あずさの三角関係に入れ替わり、必然、男女の比率に、逆転が起こっているわけだ。

 男女の恋愛における三角関係は、基本的に性差の割合が二対一の不均等にならざるをえない。このとき、少数に回された人間は必然的に選ぶ側の主体へと繰り上がる。それが、ゆに、ハルカ、美麗の構図では、ハルカに与えられていた立場であったのだけれども、ハルカ、ゆに、あずさの構図においては、翻り、ゆににその立場が回されている。読み手の判断からすれば、ゆにはすでにハルカを選んでいるのだし、だいいちその選択がかえってあずさを嫉妬させているのだから、迷う必要はないでしょう、と口を出したくなるが、重要なのは、そうした関係の不安定が、ゆにやハルカの気持ちを掘り下げ、どうして彼は(ほかの誰かではなく)彼女を選んだのか、どうして彼女は(ほかの誰かではなく)彼を選んだのか、いま一度作中人物たちに問うかたちとなり、もしも恋愛に真があるならいったい何によって規定されるのか、ロマンスとしての強度を高めていることである。

 関係性の揺らぎはまた、ゆにやハルカの表情に、あたらしい色合いを加えてもいる。要するに、恋愛感情を通じ、当人がそれまで知らなかった自分や相手の姿を知ってゆく過程になっているのだが、ここで注意されたいのは、当初の設定からすれば、彼女たちの性格に微妙な変化が訪れてはいるものの、個性がぶれていることを決して意味してはいないという点だ。フィクションではしばしば、何らかの都合上、作中人物を以前とは別人に違えてしまうような不自然が起こりうるが、『近キョリ恋愛』で、ゆにやハルカの身にあらわれているのは、あくまでも心境の問題であって、恋愛感情の不自由さを教えるものにほかならない。もしも主体の言動が、時や場合に応じるのだとしたら、それは必ずしも一貫しないことになる。ましてや色恋沙汰に左右されているときはなおさら。

 だが、選びとられた恋愛が、一時の熱に浮かされた結果ではなく、かぎりなく本物であると信じられるためには、相応の根拠が示されなければならない。すくなくとも主体の意識において、自らの意志をたしかにあらためたという根拠が、である。その表現化とでもすべき措置が、作中人物の個性をはっきり、際立ったものにし、こんなにも楽しいコメディと真っ当なロマンスの入り交じったストーリーを育んでいる。

 3巻について→こちら
 2巻について→こちら
 1巻について→こちら

・その他みきもと凜に関する文章
 『17歳』について→こちら 
 『水曜日のライオン』について→こちら
 『タイヨウのうた』(原案・板東賢治)について→こちら
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ(09年)
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