ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2009年09月10日
 高橋ヒロシ本人がさんざん公言していたように、『クローズ』の主人公である坊屋春道の「その後」は、ほんらい決して描かれることがないはずの物語であった。しかしどういうわけか、まあ『クローズ』需要とでもいうべき商品価値の高騰が一つの要因ではあるのだろうが、弟子筋にあたる鈴木大(鈴木ダイ)によって実現してしまったのだから、話が違うじゃないか、と言いたいところではあるのだけれども、とりあえずこの1巻の時点では『春道』というマンガにおいて、坊屋春道は主人公ではなく、マクガフィン的に機能するワキのファクターでしかなく、したがってこれは彼の物語ではないととれるエクスキューズを残しているあたり、むしろ題名が詐欺じゃないか、という気がしないでもない。持って回った書き出しをしてしまったが、率直に結論をいえば、あまり高く買うことのできない作品である。だいいち、田舎のちいさな世界にとどまる若者のくすぶり、要するに、地元を舞台にした自分探しの題材化に、目新しさはないだろう。ましてや、それがいかにも怠いストーリーしか結んでおらず、たとえば現在、似たようなテーマでも藤堂裕の『由良COLORS』がすでに先行し、相応にアクチュアルな問題意識を抱えているのに比べたら、残念に思われる点のほうが多い。次巻以降、老人ばかりの村に不良のチームが攻め入ってきて、主人公や春道を巻き込み、バトル・ロイヤル状態の乱戦が繰り広げられることになったら、怒濤の展開に興奮せざるをえないけれど、正直、そのへんは期待できなさそう。おそらくは主人公である上松富士介の自分探しに都合よく利用されるだけだろう。それにしてもさあ、といいたいのは、春道の、他人をぶん殴ったらそのぶん殴られた人間がなぜか心変わりをする、という特殊能力のことである。『クローズ』とは、いわばそうした特殊能力に対する理由付けが、すぐれた男性の資質を掘り下げようとする試みであった。しかし、『春道』では、どうして春道に殴られた人間の心境が変化してしまうのか、まったく意味不明であって、たぶん、あいつは超能力者か何かなんだろうと納得するよりほかない。つまり、この手のジャンルに惹句としてありがちな、男の生き方や熱いメッセージなど、(すくなくとも今の段階では、と留保しておくが)ほとんど読み取れないのだった。

・その他鈴木大(鈴木ダイ)に関する文章
 『クローズLADIES』について→こちら
 『ドロップ』(原作・品川ヒロシ、キャラクターデザイン・高橋ヒロシ)
  7巻について→こちら
  5巻について→こちら
  1巻について→こちら
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ(09年)
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