さて。この『WORST外伝』で、現在までに七代続く武装戦線のそのレジェンドがだいたい語り尽くされたわけだが。そう、ここに高橋ヒロシが描いているのは、『クローズ』や『WORST』のシリーズにおいて、何人ものカリスマを輩出してきたチームがいかにして結成されたか、すなわち初代武装戦線の記憶である。〈心を武装し 我ら最前線に立つ 自由をこの手に!!〉の旗印のもと、ゼロから自分たちの居場所をつくり上げた若者たちの青春は、いやたしかに鮮烈だ。とはいえ、まあ、基本の構成はおっさんの昔話にすぎないので、歴史上の空白を埋める作業でしかないのだけれども、熱心なファンからすれば、十分にうれしいサービスではあるだろうね、と思うし、正直、同時に発売された『“クローズ”&“WORST”キャラクターブック We are the WORST!II』と併せて読みながら、わくわくする部分もあった。終盤には『クローズ』の人物たちも、まだ幼さを残して登場する。しかしここで重要なのは、『“クローズ”&“WORST”キャラクターブック We are the WORST!II』に掲載されているもう一つの外伝「梅星ブラザーズ」もそうだが、すでに述べたとおり、あくまでもおっさんの昔話という形式をとっていることだろう。それはつまり、若い頃はやんちゃだったけど、今は社会に出て、立派に生きているぜ、このようなメッセージを言外に孕んでいる。だが、もしもこうしたヤンキー・マンガを、学園ドラマであることを含め、モラトリアムを題材にしたストーリーの一種として見るとき、注意しなければならないのは、では大人になるための成熟と契機がどうあらわされているか、要するに現代における通過儀礼の問題なのであって、その点に関し、作者は『クローズ』の陣内公平や『QP』の我妻涼の挫折以降、必ずしも達成的な表現を果たしていない。おそらくは、『WORST』の天地寿がその可能性を受け継いでいるかもしれないことは、過去に推測したとおりであるけれど、すくなくとも現段階では、先のテーマを乗り越えていないのである。そのせいでたぶん、かつては不良でも今は立派な大人の経緯を、おっさんの昔話という安直なスタイルに落とし込むよりほかなかったのだと思う。それについてはひじょうに残念だといわざるをえない。結果、ヤンキー・マンガをサーガ化もしくは作中世界をヒストリー化しようとする手法自体にも、サービス以上の切実さを感じられない。フィクションに、架空の年表、偽史を見てしまう今ふうのファンが抱えた欲望に、ただ応えているだけのものにとどまる。
『WORST』
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こちら・その他高橋ヒロシに関する文章
『鈴蘭男子高校入学案内』について→
こちら 『クローズイラストBOOK』Vol.1について→
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