ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2009年09月06日
 なにわ友あれ 9 (ヤングマガジンコミックス)

 テツヤとパンダの対照には、まさしく充実と残念の二色にわかれてゆく青春があらわれている。もちろんそれは走り屋というトライブにのみ生じる分岐ではない。冴えている冴えていない、たしかな目標のあるなし、恋している相手とセックス(性交)できるできない、このような基準によって自分と他人とを比較せざるをえない自意識を持ち合わせているとき、自然と目前には羨まれる側と羨む側の区分が立ち塞がってしまう。

 シンナーでらりった挙げ句、あやうくナツをレイプしかけたパンダの行動に同情の余地はまったくないだろう。しかし、親友であるテツヤと片想いしているナツがもしかしたらスケベなことをするかもしれない可能性にもだえ苦しみ、ひたすら夜を過ごすパンダにはまだ同情の余地があるのは、その姿に、趣味や嗜好とは関係なく、誰もが経験しうる自意識が共有されているからにほかならない。〈一人ぼっちのクリスマス‥‥一人ぼっちの誕生日‥‥バレンタイン‥‥おおみそか‥‥正月――‥‥どれもこれも今日までは孤独に打ち勝ってきたが‥‥今日ほどキツイ思いはなかった――……〉というパンダの心境は、作品の舞台である1990年(平成二年)から遠く離れた2009年の現在もなお、十分な説得力を持っているとさえ受け取れるのであって、いやまあ大げさにいうなら、今日まで連綿と表現の対象にされ続けている近代的な人間の内面をそこに見ることもできる。

 パンダのくだりは必ずしも本筋に関わっているわけではないが、時代風俗的な描写とはべつのレベル、つまり作者である南勝久が若者のいったいどこに真価を託しているか、この点において、『なにわ友あれ』というマンガのリアリティを補っているといっていい。どのようなトライブであれ、残念な青春を送らなければならないタイプは、一定数存在する。これが、すくなくとも現時点でパンダに与えられているダウナーなポジションであるけれど、当然、彼とは対照的にアッパーなポジションをいくのがテツヤの役回りだということになる。『なにわ友あれ』を、テツヤのビルドゥングス・ロマンとして解釈するさい、9巻のここで、その成長段階をはかるようにし、二つの具体的なアイテムが彼にもたらされるのは、じつに象徴的な出来事だと思う。

 自動車の運転免許証と、そして大先輩であるヒロからやっとのことで譲り受けたホンダのワンダーシビック、二つの存在はあきらかに、物語のなかでテツヤのランクがあがったことを教えている。たとえば、主人公が伝説のマシーンを手に入れる、式のエピソードは、この手の作品にとってセオリーではあるが同時に、テレビ・ゲームのRPGなどにおける勇者が冒険の過程で金銭には換えられない装備を得るのと等しい構図を有し、成り立つ。無論、ヒロのワンダーをテツヤは100万円で買い取ってはいるものの、それが対価に見合っていないことは執拗に言及されるし、話の流れは、あくまでもテツヤの資質がヒロに認められたうえでワンダーが与えられたことになっている。

 そこで重要なのは、ではヒロはテツヤのいったい何を評価したのか、ということであって、面談のおり、〈若いうちに本物のスリル味わいたいってか――? だからって環状なんか経験したってロクな大人にならんぞ!〉と忠告するヒロに対し、テツヤは〈でもオモロイ大人にはなれるんちゃうの?〉と言っている。ヒロが〈ジジイになってから言いたいかァ――? 「ワシも若い頃は〜〜」ってェ――‥‥〉と尋ねるのに、〈めっちゃ言いたい! そんなジジイになりたいッ!! 「若い頃は〜〜」も言えんジジイのほうがさみしいやん! 俺はそう思う――!!〉とテツヤは答えるのである。テツヤの言葉はおそらく、モラトリアムをいかにして生き生きと生きるか、の決断を代弁しているだろう。そのために是が非でも〈女でも――こいつしかない!! とか――‥‥そういうビビッとくる相手っておるやん!? ホレたッ!! ‥‥ってマジで言える相手――!! こいつしかアカンって相手っておらん? 男でも女でも!〉とまでに思い詰めるワンダーを手に入れなければならない。すなわちヒロはその情熱とでもいうべきに説得され、ワンダーを譲っているのだ。

 女(ナツ)と車(ワンダー)によってテツヤの青春はアッパーなポジションを果たしてゆく。これが『なにわ友あれ』において、走り屋というトライブが題材に選ばれている最たるところだといえる。一方で、優先する順位を違えてみるなら、そのモラトリアム像は必ずしもトライブに限定されないことをすでに述べた。主人公と恋人の関係性は、ラブコメのテーゼに近しく、環状族同士の権力闘争は、国盗り合戦、軍記物のヴァリエーションともとれる。その意味で、男性性を主題としたひじょうに古典的かつ普遍的なストーリーを作品は追っているのである。

 それにしても、前シリーズである『ナニワトモアレ』で厄介な敵役を演じたタツオとゴウはあいかわらず、自動車のパーツ代を稼ぐために〈悪い事してるからな――金なんかどうにでもなる――!!〉だってさ。いい加減、おまえらも卒業しろよ。

 8巻について→こちら
 7巻について→こちら
 5巻について→こちら
 4巻について→こちら
 1巻について→こちら 
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ(09年)
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