ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2009年07月21日
 あたかもその作品を内部から食い破るかのように、佐木飛朗斗のつくり出す宇宙はつねに膨張をし続ける。しかし、増大してゆくエントロピーはやがて佐木自身の手にあまり、結果、多くの作品が意味不明瞭なエンドを迎えざるをえなかったことは、周知のとおりだろう。同様の困難もしくは爆弾を、山田秋太郎と組んだ『爆麗音』も当然のごとく抱え込んでおり、はたしてそれにどう、調和の旋律を与えるかが、ストーリーとは異なったレベルで、最大のテーマになると思われる。

 ところでここ最近、ロック・マンガ、いや、バンド・マンガというべきが、シーンの一角に定着しつつある。なかでも主流をなしているのは、音楽そのものを題材化するというより、趣味やサークルの存在に焦点を絞ってゆく手つきである。これを指し、ハロルド作石の『BECK』以降から、かきふらいの『けいおん!』以降へ、とタームを切り替えられるかもしれないが、それはともかく。たとえば、花見沢Q太郎の『PLAY!』では、女の子に誘われたことをきっかけに、方向性や技術的な問題はべつとし、ついついバンドに加入してしまう主人公の姿が描かれているけれども、『爆麗音』では、似たふうな場面、まったく違う選択肢をとる主人公の姿が描かれている。もちろん、これはたんに傾向の差異にしかすぎず、どちらが良い悪い、正しい、ということではない。だが、そうした例の対照によって、同じジャンルにおける分岐の一端を知ることができる。

 さて、以上は余談にほかならない。本題は『爆麗音』の5巻である。アルバイト先を訪ねてきた「デモンズ」のオーナー黒沢に、あらためてライヴ・イベント「デモンズナイト」への出演を依頼された歩夢は、まさかの出来事を喜んで引き受けるが、しかし、肝心のバンドがない。すでにヒューマンガンズとは袂を分かってしまっている。そのため、いそぎメンバーを探さなければならない彼のもとに、かねてより縁もゆかりもある人物たち、印南烈、ヴィオレッタ、そして道夫が集まってくるのだった。

 こうしてバンドの結成される経緯が描かれているのだけれど、その様子はオーディション形式のジャム・セッションのなかに切り取られている。歩夢と烈のツイン・ギターが織り成す「揺れ(グルーヴ)」に、代わる代わる加わるリズム隊はついてゆけず、演奏の最中に除けられてしまう。〈…確かに凄ェ…っつーか “違う世界の生き物”みてーだ…〉が〈けど…“これ”をバンドにするつもりなのか? これは…ソリストのペアだっ!! …バンドじゃ無いっ…!!〉と敬遠されてしまうのである。しかしそれがすべてのはじまりだっただろう。テレキャスターのベースを携えたヴィオレッタの登場が、彼ら二人にあたらしい展開をもたらすのだった。歩夢のギター、ギターからピアノへとチェンジした烈が、ふたたび「揺れ(グルーヴ)」を発したとき、いっしょにジャム・セッションに入っていたヴィオレッタは〈最高ネ! 無伴奏ソナタでは得られない“グルーヴ”ッ!“烈のピアノ”の無限世界を “歩夢のギター”が どこまでも突き抜けてゆく…!! 〉と思う。さらには、三人が奏でる「揺れ(グルーヴ)」に触発され、ただの傍観者だったはずの道夫がドラムを叩き出すと、ようやく歩夢は〈これだっ!! この爆音こそがッ…!! オレの… オレのバンドの産声なんだッ!!〉という実感を持つのだ。おそらくはこのシークエンスに『爆麗音』の本質が託されている。そしてそれは、佐木の宇宙がひろがり、膨張するのとパラレルなものであるに違いない。

 独特なポエジーをともない、膨らみ続けながら、もしかしたら破綻さえもきたしてゆく佐木飛朗斗の宇宙に、山田秋太郎はひとまず、応え、こらえ、抗っている。演奏シーンにイディオム的な目新しさはないものの、たとえば、ファズで音をひずませたストラトキャスターを烈が弾いてみせる場面、〈まるでッ… 重金属(ヘヴィメタル)… 超デケェ戦斧を振り廻してるみてーだッ!!〉と述べられるようなイメージの具体化、激しい動きの描写は、作画上のインパクトを引き出すばかりではなく、「揺れ(グルーヴ)」なる抽象的な概念に対し、明瞭なダイナミズムを与えているのである。

 ギター、ベース、ドラム、これでバンドは揃ったかに見える。たしかに、インストゥルメンタルのみでやっていくのであれば、何ら問題はない。しかしやはりここで思い出されたいのは、弥勒の存在、つまりはヴォーカルのパートを設けるだけの余地が物語に残されていることだ。弥勒との因果は、歩夢の母親を通じ、すでにひらけている。まさかそれを伏線として回収するような真似を、佐木がしたらしたで(できたらできたで)驚くし、すくなくともストーリーのレベルではまだ、音を合わせたときの開放感以上に鳴らすべきテーマを、主人公たちは得ていない。

 4巻について→こちら
 3巻について→こちら  
 1巻・2巻について→こちら

 『パッサカリア[Op.7]』について→こちら

・その他佐木飛朗斗に関する文章
 『外天の夏』(漫画・東直輝)
  4巻について→こちら
  3巻について→こちら
  2巻について→こちら
  1巻について→こちら
 『[R-16]』(漫画・桑原真也)12巻について→こちら

・その他山田秋太郎に関する文章
 『解錠ジャンキー・ロック』1巻について→こちら
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ(09年)
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