ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2009年07月14日
 ナンバデッドエンド 3 (少年チャンピオン・コミックス)

 これまでにも再三述べてきたことだけれど、小沢としおの『ナンバMG5』及び続編である『ナンバデッドエンド』の健全さは、今日における少年マンガの、とくに日常の世界をベースとした作品群のなかにあって、まったく際立っている。おそらく、匹敵する作品を現在進行形のものから探し出すとしたら、西森博之の『お茶にごす』と加瀬あつしの『ゼロセン』ぐらいしか、見つからない。しかしながらどうして、そのような、いわゆるヤンキー・マンガの系に数えられるものが、少年が健全に生きられる可能性の題材化に成功しているのか。さしあたり理由を挙げるとすれば、そもそもそのイディオムの原初的な段階において、学園生活という、ほとんど誰もが経験し、共感が可能な領域を、絶対に不可欠な舞台として選んでいると同時に、そこで自らの優位を得ようとする男の子たち(主体に都合のよい未熟な男性性)の存在に対し、決して甘やかさないぐらいの批評性を加えることが、物語を成立させるのに必要な条件となっているためだと思われる。もちろん、基本のイディオムに忠実なだけでは、たんなる時代遅れになりかねない。だがその力学を、現代にアレンジしながら、徹底的に深化させることで、高度な達成を果たしている。それが作品の健全さとなってあらわれているのである。

 だいいち、『ナンバデッドエンド』の、この3巻だよ。進学校にすべく改革を目論む校長が、テストで赤点をとった生徒のいる部活動を無理やり停止させ、あくまでも成績重視の気風をつくろうとする、それを心好く思わない生徒会長が先頭に立ち、できるかぎりの抵抗を試みるのだった、というストーリー自体は、まあベタだとか何とか、知ったかぶりのジャーゴンに喩えることができるだろう。どころか、あまりにも通俗的すぎて今どき敬遠されがちな展開だとさえいえる。しかしそれが、白けないだけの魅力をともなっているのは、テーマのレベルの要請を受け、切実に応じた結果のナラティヴだからなのであり、またそうやって確認されているのは、学園生活が青春と置き換えられるとき、その所有権はいったい誰が持つのか、こうした事実関係の問題にほかならない。じつはそこに現代的な意義が盛り込まれている。たとえばもしも、学校というコミュニケーションの空間において、関係性を維持するためには、何らかのロールプレイをキープしなければならない、あるいはスケジュールに合わせ、分断された共同体を移動するのにさいし、自らのキャラクターをスイッチしなければならない、としたならば、それを行う主体は青春の所有者として真に主体的だと判ぜられるのかどうか、このような懐疑を、主人公の行動は射貫いているのである。

 はからずも、千葉最強のヤンキー、そして白百合高校の生徒会長、の二面に引き裂かれながら、青春をハードに送り続ける主人公の難破剛だったが、妹である吟子の理解を得、ようやく一息ついていたところ、すでに触れたように、心ない校長の提案が全校生徒を苦しめることになる。月末の学力テストで赤点をとった部員が三割以上いた場合、そのクラブは活動を停止しなければならない。できるかぎり脱落者を出したくない剛は、成績の悪い生徒たちを必死になって励ます。それを見た吟子が、かつてたくさんの不良を束ねていた頃のイメージを重ねるのは、たしかにニュアンスはギャグなのかもしれないが、たとえ外見や言動が時と場合によって違ったとしても、剛の精神の柱がつねに一本であることを教えている。さらには校長の決断に抗議する剛の姿がふだんから想像できないことを、〈いや〜それにしてもさっきの難破は迫力あったな…あれが素の難破だったりして!〉とクラスメイトが言ったりするのも同様である。仕方がなく複数の個性を演じ分けているにもかかわらず、精神の柱がつねに一本であるというのは、すなわち、その責任の所在がはっきりと自覚されていることを意味している。これが、青春の所有者として真に主体的であろうとする健全さを、剛に、『ナンバデッドエンド』のストーリーに与えているのだ。

 それにしても伍代はゲーム脳すぎらあ。いやいや、こういうギャグを決して忘れてはいないあたり、作者の資質がよくあらわれているのだが、大丸が初恋の相手を救おうと奮起するのに並行し、剛の修学旅行が描かれることで、波瀾万丈の広島編が幕を開けるのだけれども、生まれや育ち(遺伝や環境)のせいで不良にならざるをえなかった運命を指すのであれば、『ナンバMG5』における横浜編の光一が、剛のオルタナティヴであったのと等しく、広島編で登場してくる鋼一もまた、剛のオルタナティヴなのだろう。やはりキンキ・キッズかい。

 2巻について→こちら
 1巻について→こちら

 『ナンバMG5』
  18巻について→こちら
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  1話目について→こちら
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ(09年)
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