ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2009年07月08日
 『文學界』8月号掲載。単純に(両方を)読んでいる人間がほとんどいないからなのだろうが、高橋源一郎の『いつかソウル・トレインに乗る日まで』と村上龍の『心はあなたのもとに “I’ll always be with you, always”』のあいだにある、いくつもの共通点に触れているものをまだ見たことがない。まあもしかしたら、『心はあなたのもとに』の連載が終わり、単行本になったとき、ようやく出てくることになるのかもしれないが、言ったもん勝ちなので、先に言っちゃおう。まず何より主人公の、ケンジ、という名前だ。『いつかソウル・トレインに乗る日まで』がヤマザキケンジならば、『心はあなたのもとに』のほうはニシザキケンジといった具合に、苗字までを含め、ひじょうに酷似しているのである。もちろんそれを、中上健次に由来している、と指摘するのは容易い。そして中上の念に引っ張られるかのように、双方とも、韓国のソウルが、一種のシンボリックな機能を果たすのもそうだし、彼らの年齢が、職業などのディテールは違えど、ちょうど作者の、現在の等身大に近しく50歳代に設定されているのもそうだといえる。はたまた、その主人公たちが、(ほとんど登場しないが)妻もいるのに、年下の女性に惹かれてしまい、決して欲望だけでは叶えられぬ、ピュアラブルな恋愛を貫こうとしたりする。結果、いわゆるベタと喩えてもいいような、たいへん通俗的な物語を繰り広げてゆくのであった。もしも『心はあなたのもとに』をケータイ小説ふうだとするなら、『いつかソウル・トレインに乗る日まで』は韓流ドラマふうにも思われる。なるほど、ポストモダンとやらの行き着く先はそこか、とかね。ただし、作品の結構、筋書き、文体には、それぞれの資質がよく出ており、全体の印象がまったく違っているのは、明記しておかなければなるまい。

 高級風俗で働いていた香奈子を、自分の恋人にした主人公は、彼女にべつの職を紹介するとともに、栄養士の専門学校へと通わせることで、将来に対する夢も与える。しかし重病を患ってしまったために香奈子は生活のほとんどを病院で送らなければならなくなる。じょじょに希望をなくしかけてゆく彼女の不安を、携帯電話のメールで送られてくる文面などから察し、いったい自分に何ができるのかを悩むことが、主人公に無力感を突きつけてくる。こうした物語においてさえ、先ほど作者の資質がよく出ていると述べたが、この第二十七回でいうなら、主人公が一人でいるホテルの部屋に、どこからか白い蛾が迷い込んでくるくだり、描写の綿密さが内面の孤独と重なり合う筆致は、正しく村上龍に固有のものであるし、夜のデートを久々にした二人の、関係性の、抽象的な距離が、「カギ括弧」で区別されない会話のなかにあらわされ、あたかも告白に似た似た印象をつくりあげていくのも、じつに、らしい、点だろう。それにしても完結はまだ先か。一回一回のヴォリュームはそれほどじゃないにせよ、けっこう長い作品になっている。

 第十九回について→こちら
 第十七回について→こちら
 第十一回について→こちら
 第七回について→こちら

・その他村上龍に関する文章
 『半島を出よ』について→こちら


posted by もりた | Comment(3) | TrackBack(0) | 読書(09年)
この記事へのコメント
ブログ拝見させてもらっているのですが、
せっかく読みたい、と思っていても、あまりにも改行が少なすぎて、圧迫感を覚えます。

ブログだと2、3行に一回ぐらい行をあけるのが、読み手への配慮かなと思っております。これでは途中で読むのをやめてしまいます。(ほかの読みやすいブログは、ほとんどそうしています)

いきなり生意気なことを言って、申し訳ありません。
Posted by たかだ at 2009年07月10日 02:53
ブログを拝見させてもらっているのですが、
あまりにも改行が少なくて、読んでいて圧迫感を覚え、読むのを途中で放棄してしまします。とても残念です。

読みやすいブログは、だいたい2、3行に一マスは空間を設けています。

読み手への配慮、優しさがあると、もっと読む方が多くなると思います。生意気なことをいって、申し訳ありません。。。
Posted by たかだ at 2009年07月10日 02:57
たかださん、コメントありがとうございます。

いえいえ、失礼だなんて。
以前にもべつの方から同じようなコメントをいただき、気をつけてはいるのですが、他の方への配慮が足りず、改行をこわがるのは、たしかにこちらの文才のないせいです、申し訳ございません。

2、3行に一マスというのは、さすがに自分の感覚でいうと、ちょっと、というのはありますが、改行に関しましては、今後もできれば気をつけていきたいと思います。
Posted by もりた at 2009年07月10日 20:57
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