
もちろん、バドミントンを題材にしたマンガは過去になかったというわけではないが、おそらくそのジャンルを代表する一作として、後のマンガ史に名を残してゆくのは、咲香里の『スマッシュ!』になるだろう、という気がする。すくなくとも、現時点で13巻もの内容に及んでいる連載の好調ぶりは、そうした可能性を十分に示しており、『スマッシュ!』と同じように深い愛情をもってバドミントンを描いていたにもかかわらず、掲載誌の休刊と不運をともにしなければならなかった『やまとの羽根』の前例を持つ作者にしても、この成功は励みとなっているに違いない。いや、じっさいに作品がすぐれておもしろいものをキープしている以上、読み手であるこちらの視線も必然、熱くなるばかりである。そもそも、競技への熱心さを溢れさせつつも、自らの秘めたポテンシャルを知らず、人並み程度に収まっていた主人公が、進学にともなう環境の変化や、出会い、訓練を通じ、才能を開花させてゆくていの、つまりはスポーツ・マンガにオーソドックスな形式を、あえて選ぶことによりスタートを切ったマンガであって、そこからの話の膨らませ方、好奇心の持たせ方にこそ、評価の好悪を分かつセンスが発揮されていると見てよいのだけれども、ストーリー、作画、構成などの、あらゆるレベルにおいて、十二分な成功を果たしていると思う。バドミントンに詳しいか詳しくないかの前提は関係なく、作中人物たちの一喜一憂に没頭させられるだけの質をともなっている。たとえば、練習や試合のシーンでは、作中人物の内面を開示することによって、読み手の視線を競技の結果に誘導する仕組みになっているのだが、すなわちトリガーの役目を為す彼らの、心の動きは、日常の描写を丁寧に積み重ねることで、説得力を宿すことができている。ともすれば『スマッシュ!』が、学園ドラマ、ラブコメ、青春群像としての魅力を有しているのもこのためで、日々の一個一個に、プレイヤーの、あくまでも思春期の人間らしいモチベーションを含ませ、それを筆に、色にしながら、成長へと繋がってゆくようなラインが引かれているのだ。物語の開始当初は、中学を卒業したばかり、まだ初々しかった主人公の翔太も、すでに高校2年生となってずいぶん経つ。その間には、ヒロインである優飛との恋愛や、アキレス健に重度の怪我を負うなど、さまざまな事件、出来事があった。伏線よろしく、潜在的な才能も引き出された。こうした歳月をみっちり踏まえているおかげで、現在の彼の存在に、そりゃ一つ上の蛯沢先輩も一つ下のひよりちゃんもめろめろにならあ、というぐらいの頼もしさが備わっているのである。苦労もしたんだ、実力がつくのも当然だし、皆から信用されるのもわかるよ。したがってその、あまりのもて具合に対して、ずるい、とは言わない。いや、ちょっと言いたい。純粋な嫉妬としてなら、めちゃんこ言いたい。
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