
農大を舞台としているということで、石川雅之『もやしもん』あたりと読み比べるとおもしろいのだが、いや、しかし農大流行っているのか、といえば、きっとそうではなくて、モラトリアムを描くに際して、もはやふつうの大学、学部、学科ではうまく立ちいかない、という今日的な問題があるのだろう。だいいち、なぜ大学に入ったのかという、いちばん最初の部分でドラマが生まれないし、俺は大学に入って何がやりたかったんだろう式の自分探しは、90年代までに散々リピートされ、とっくに劣化してしまっているうえに、そこで何かを達成することや、その先にある何かに向けて精進するために、まあたとえば文学部に行く人なんて皆無でしょう、結局のところ、進学なんて時間稼ぎみたいなものだ。その点、技術系なんかだと、入学するにあたって、何かしらの動機が要るように思う。あくまでも推測であるが。そういえば、宇仁田ゆみの描く学生はみんな、何かしら手に職をつけるために、修学しているような気がする。というわけで、『酒ラボ』である。とある農業大学の、発酵や醸造の研究室に属しているアワモリは、なぜ自分がこの道に進んだのかを、もうとっくに忘れてしまっている。下戸であるにもかかわらず、教授の手伝いで、利き酒などをやらされたりする。そのときに〈なんで おれ ここにいるんだろう〉と思う。それに比べ、彼の賑やかな同級生たちは、しっかりとした目的意識を持って、研究に臨んでいるように見える。私生活もそれなりに充実しているみたいだ。なのにアワモリはといえば、要するに、サエない感じなのだ。それでも、ときに仲間を助けたり、もちろん助けられたりしつつ、日々を過ごしている。これが、小品ながら、けっこういいお話なのである。総体的にみればコメディなのだが、ところどころに身につまされるシーンがあり、一生懸命のワンダフルな効能に絆されたりもする。旅の途中だとか、夢の途中だとか、そんなエクスキューズを吐く前にまず、自分がいったいどこに向かっているのか、何を目指しているのか、それを決めなくちゃね、と思う。
・その他宇仁田ゆみの作品に関して
『よにんぐらし』第1巻について→こちら
『アカイチゴシロイチゴ』について→こちら
