ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2009年04月12日
 空 ~美しい我の空 美 我 空 - ビ ガ ク ~ my beautiful sky 【完全初回限定盤】

 この空は皆のものであり皆が同じ空を見ていると信じることができる一方で、この自分によって見られている空は一つしかないとも信じられる。人の認識において、こうした二つの想念は必ずしも矛盾しないし、対立しない。ただ、南からのものであろうが北からのものであろうが季節風のざわめきが感情を揺らすように、生きていることの哀歓を入り混じらせる。

 堂本剛の新しいソロ・ワークである剛紫(つよし)には、「堂本剛」名義のそれともENDLICHERI☆ENDLICHERIや244 ENDLI-x時代のそれともまた違った世界がひらけているのだけれども、これが一種異様な境地であって、なかなか他に類を見ない。シングル『空 〜 美しい我の空』とアルバム『美 我 空 - ビ ガ ク 〜 my beautiful sky』で聴かれるのは、きわめてスケールは大きくありながら、しごくパーソナルかつスタティックに響き渡るという、この、いっけん相反した二つの印象が、不思議と同居したサウンドなのであった。

 リズムに関しては、たしかにENDLICHERI☆ENDLICHERIや244 ENDLI-xの活動で学んだファンクの色が生かされているにもかかわらず、高揚感に直結する部分は極度に後退させられており、総体的にメロディアスといえばいえるなか、そのセンスであったり、歌詞にあてられた言葉は、ひじょうに内向的で、バラードのスタイルといおうか、テンポをアップしないナンバーが、おおよそを占める。躁と鬱の二極で捉えるなら、間違いなく、後者に近しいと判断されるが、しかしそれが、暗い、や、重たい、に変換されない。もっとずっと、あわく、ナチュラルに、せつなく、うれい、そこから迫り上がってくる情緒への信頼を、表現の強度、うつくしさに持っていっている。

 あえていうなら、シック、な作風である。初期の頃のようなSICKさもあり、大人びて得たCHICさもある。

 アルバムには未収録な「空 〜 美しい我の空」は、ゆるやかなピアノの伴奏と東儀秀樹による雅楽器が、メロウに寄った旋律を設けていき、そこにオーケストレーションが薄く被さる。堂本のヴォーカルは、あいかわらず、堂々として、伸びがいい。通常のシングルとして考えるなら、もうちょいのポップさ、キャッチーであること、フックのつよさが欲しいところではあるものの、ENDLICHERI☆ENDLICHERI以降、このアーティストは、そうした観点でシングルを編んではいないと考えられる。7分もある大作で、どかん、とくるダイナミズムは用意されていないのに、ヴォーカルとバッキングの絶妙な案配が、だれない起伏をつくっている。

 同じく東儀秀樹を招いての、しかし今度は堂本が歌うかわりにギターを入れ、ジャム・セッションふうに展開されるインストゥルメンタル「美 我 空」で、アルバム『美 我 空 - ビ ガ ク 〜 my beautiful sky』は、幕を開ける。244 ENDLI-xとの連続性を感じさせるファンキッシュでエレクトロニックなアプローチだが、そのまま動的なモードにはなっていかず、続いて2曲目の「TALK TO MYSELF」は、たいへんシンプルなバンド演奏の、スロー・ソングだ。〈リアルを… / 光を… / 真っすぐに / 君に捧げたいんだけど / 時代はそうさせないかも知れないな…〉というフレーズが、エモーショナルにうたわれる楽曲の題が「TALK TO MYSELF」であるのは、どことなく意味深でいて、アルバムの方向性を暗示しているかのようでもある。

 やはり激しさとは無縁の、凪いで、スローな歌うたう3曲目の「愛詩雨(あいうたう)」が、じつはマイ・フェイヴァリットである。〈愛は優しいから / 僕に黙って死んだよ / さよなら云わずに / そっと胸で死んだよ〉、こういうフレーズが、もったいつけられることもなく、一語一語のはっきりとした発声、メロディによって告げられる出だしからして、たまらない。アンチ・クライマックスな進行の内に、〈癒えないで / 癒えないで〉と〈死ねないで / 死ねないで〉と紡がれ、重ね合わせられるイメージは、ともすれば空漠としているが、〈愛は優しいから / 僕に黙っていたよ / さよなら云わずに / そっと胸で / 生きていたよ〉と反転するラストに、やさしく、前向きな意識を感じたい。

 初回限定版のみに収められた5曲目の「雨の弓 〜Ameno-yumi」では、ストリングスが劇的なドラマを描いており、クラシックな弦楽器の合奏とエレクトリックなギターのソロが、おおいに盛り上がる中盤の展開が、とてもかっこういい。そして繋がれる〈この悲しみ降る場所から / 陽を打てば / あなたまで / 架かるのかしら〉という願いの、なんてセンチメンタルなことかよ。

 6曲目の「NIPPON」や7曲目の「叶え Key」で、前者ならば〈NIPPON〉が、後者ならば〈NIHONJIN〉が、といった具合に、やたら半径のひろげられたアイデンティティをコーラスに用いるのは、個人的にあまり好むものではないのだけれど、リズムの柔軟さ、愛嬌と差し引き、心地の好いグルーヴに包まれる。あるいは〈NIPPON〉や〈NIHONJIN〉といった依り代を前にしたことで、ようやくこの、踊り、祝祭のためのギア・チェンジが導かれたのか。いずれにせよ、アルバム中、もっとも躍動にあふれた場面であるのは間違いない。

 堂本自身のピアノの弾き語り、9曲目の「歴史」も、タイトルだけなら大げさだが、赤い糸の挿話をモチーフとし、〈キミ〉と〈ボク〉のあいだに置かれた小さな関係性を、深く、歴史に喩えられるまで、深く、記憶を掘り起こすように、深く、デリケートにラヴ・ソング化している。しっとりとしていて、〈指先〉の個所で、〈君が云う〉の個所で、〈好きだよと〉の個所で、ファルセットになるヴォーカルに、うっとりとしてしまった。

 以前にくらべ、実験的な性格は低まり、音楽的なキャパシティが狭まったぶん、とっつきやすくなったかといえば、いやいや、そうでもない、ないか。楽曲のアレンジのわりとストレートであることが、翻って、堂本剛とそのソング・ライティングに独特のレリッシュを濃くしている。ラストの「Purple Stage」は、作品全体のプロセスが、あたかも大団円として集約されているかのような、スローなソウルに任せたナンバーであるが、必ずしもハッピー・エンドには思われない、何か、いわく言い難い悲壮さを満たす

 『I AND 愛』について→こちら
 『Coward』について→こちら
 「ソメイヨシノ」について→こちら
 [si:]について→こちら

 『僕の靴音』について→こちら
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(1) | 音楽(09年)
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Excerpt: PV視聴 動画 - 動画検索.comでは、剛 紫/空 〜美しい我の空の動画がご覧になれます。
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Tracked: 2009-04-17 19:04