ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2009年03月26日
 ストロボ・エッジ 5 (5) (マーガレットコミックス)

 いま、もっとも素敵な少女マンガは、ということであれば、間違いなく、咲坂伊緒の『ストロボ・エッジ』を挙げよう。とにかくもう、最高潮に胸がときめく。せつない。このせつなさを誰かと共有できるなら、そうしたい、と願う気持ちを恋と呼ぶのなら、恋がしたい、恋がしたい、恋がしたいに違いない。たいへん、いてもたってもいられなくなるのである。

 しかしそれにしても、安堂くんがかわいいすぎる。このさい、安堂きゅん、と口にしてもいい。なんとキュートであることよ。詠嘆せざるをえない。途中から物語に参加してきたワキのくせに、完全に主役の二人を食っている。まあ、さすがにそれは過言だろうが、すくなくともこの5巻は、番外編の「〜未完の地図〜」を含め、安堂という男の子の魅力に満ちている。もちろん、ストーリー自体も、いつだって、佳境かというぐらい、感情のままならなさに満ち、きらきらとしたドラマを輝かせているけれど、ここではとくに、その輝きのうちの一つ、安堂が眩しい。

 仁菜子の、蓮に対する気持ちは変わらぬまま、季節は冬に移っていた。学校が休みに入って、これでもうしばらくは蓮と会えない。12月24日、きっと蓮は恋人の麻由香と一緒に過ごすのだろう、と思っていた仁菜子であったが、クリスマス・パーティの帰り、たまたま目に入ったガソリン・スタンドで働く彼の姿を見、どうしてか苦しく、いや、たぶん諦めきれない心が苦しくて、涙してしまう。好きだと告白してくれた安堂の言うとおり、ほんとうはふっきれなければいけない。蓮のことも、この苦しみも。しかし休み明け、学校で彼の姿を見たとたん、ふたたび思い知らされる。〈この冬休みで 会えない事に少しは慣れたかもしれない だけど目に映った瞬間 そんなのはいっぺんに振り出しに戻される こんな確かな気持ちを 私は 消すことが出来るのかな 蓮くんの写真は毎日見てしまった〉。自分の気持ちに嘘はつけなかった。

 何よりも『ストロボ・エッジ』がすぐれているのは、作中人物たちの仕草、表情に、その心のなかの傾きが、よくあらわされているからで、たとえば、先ほど引いた仁菜子のモノローグの場面では、じつは蓮の目線、仁菜子の目線、そして安堂の目線がそれぞれ、三角関係とも言い難い微妙なニュアンスを見事に構図化している。とくに蓮の眼の動き、眼の輝きは、ふだん口数が少なく、あまり大げさな感情を見せない人物だけに、他のシーンにおいても、重要な意味を持つ。

 あるいは、ここにきて、安堂がやたら魅力的なのも、表向きちゃらかっただけの彼の内面が、同様の技法により、実感として十分な説得力のあるところにまで引き上げられているためだろう。〈手は握ってないっ 服しかつかんでねーもん〉って、はにかむ、その顔、ああ、まじで恋しちゃってんのね。かわいくて弱るよ。

 物語のレベルで踏まえるならば、そうした安堂の一面を引き出しているのは、やはり、仁菜子の存在にほかならない。この巻で語られているように、かつて恋人に裏切られたせいで、恋愛に対して、女性に対して本気になれなくなってしまった。だから遊びでなら誰とでも付き合えた。その、いったんは不審になってしまった純粋が、仁菜子との出会いを、さらにいうなら、彼女の、自分のためだけに人を利用したり、騙したりしない性格を通じ、信頼を取り戻すことができているので、なんだかかわいらしい顔を見せるようになっているのである。やがて、蓮に向けられた仁菜子の一途さに、ふられた安堂が〈今なら仁菜子チャンの気持ちもわかる 仁菜子チャン 前に『いつか きっと こういう恋する』って俺に言ったよね まさに今それだから だから まだすぐには諦めるとか出来そうにないけど〉と述べている言葉の、ひたむきな印象も、そこからやって来ている。

 一方、蓮と麻由香のカップルに、いよいよ作品が佳境に入ってきたことを教えるかのような、そういう大きな転換がもたらされる。二人のあいだに何が起こったのか、くわしくは触れないけれども、両親の離婚に傷つく麻由香が、父の話を聞き、のちに一個の天啓を得るくだりは、今日の少女マンガを考えるうえで、なかなか見過ごせない。

 両親の離婚もしくは再婚というのは、この現代の家庭事情にそったリアリティを担うからか、少女マンガのジャンルに、おそらくは以前にも増して、頻出的になってきた設定だといえる。このこととパラレルになって顕在化しているのは、どれほど愛し合った者同士でも別れてしまうことがあるなら、永遠の愛などない、今こうして誰かを愛していることも、いずれ嘘に変わってしまう、という不安である。ときにそれは、恋愛に真実はない、という諦念になりうる。ある種、ロマンティック・ラヴ・イデオロギーへの反動であるが、にもかかわらず少女マンガ的なテーマを追わねばならず、恋愛主義の物語を抱かなければならない、そのような困難からはじまっている作品が増えつつある。

 もしかしたら不変なものなんてないのかもしれない。こうして前提化された困難に、『ストロボ・エッジ』は、たとえば心境と時間の概念を、麻由香の決断とそれを聞き入れる蓮の姿に託し、少女や少年の時代に必ずやもたらされる成長へ置き換えることで、うまく、誠実に応えていると思う。

 4巻について→こちら
 3巻について→こちら
 2巻について→こちら
 1巻について→こちら

・その他咲坂伊緒に関する文章
 『マスカラ ブルース』について→こちら
 『BLUE』について→こちら
 『GATE OF PLANET』について→こちら
posted by もりた | Comment(3) | TrackBack(0) | マンガ(09年)
この記事へのコメント
こんばんは。

早速読みましたよ。
いきなりのメガネ蓮くんにドッキドキでしたけど(爆)。
安堂くん、すごく良かったです。とても魅力的でしたし、本当に可愛かった。
服つかむところとかこっちが照れるくらいです。
男の子もあんな気持ちを持ってるんですね。
男の子の心の中までって少女漫画じゃわからないことが多いんですけど。

仁菜子の『きゅーん』も、安堂くんの『きゅーん』も、いつもわたしを『きゅーん』とさせます。


あと、目。
わたしも目の動きとか目の輝きが本当にすごいと思ってて、
蓮くんに関しては殆ど目を見て心を読む感じです。
で、どの場面でもその目の輝きなんかが、
自分の周りの時間を一瞬止めてしまうくらいの力を持っていて、
ただ漫画を読んでいるだけなのに、なんだか苦しくて。

もりたさんの最初の4行がすごくわかります。
本当にいてもたってもいられない…もうどうしようといった感じで、
痛いくらいに胸がときめきます。

なので、こうやってお話ささせていただけるのがすごく嬉しいです。
自分の中に閉じ込めたままだと、切なくて苦しくてどうにかなっちゃいそうです。

愛しく思われるって、どんな気持ちなんでしょうね。
愛しく思う気持ちも、わたしはよくわからないんですけど。

駅のホームで風が吹いたときの仁菜子の気持ちが、
わたしは、とてもとても好きです。

あー。
次の巻までが遠い。
でもまた、何度でも読み返せような気がします。
Posted by at 2009年03月31日 22:16
どうも、こんにちは。
ストロボエッジ5巻読みましたっ!
もう、蓮くんがかっこよすぎです、、、!
私は、安堂くんより、蓮くん派なのですが、今回の5巻で、安堂くんにもときめいてしまいました。
初めて安堂くんが登場したときから、「きっとイイ奴なんだろうなぁ」って思ってたけど、やっぱり、イイ奴っていうか、何か深いものを持ってる奴でした。
でも、やっぱり、私は蓮くん派ですっ!!!
もう、漫画に恋しちゃったんじゃないかって思うぐらい、蓮くんを見ると、ときめきますよっ
仁菜子が羨ましいっ!でも、なんか仁菜子は憎めないキャラだから、応援したげます、、、。
次の6巻が待ち遠しい、、、!

また、私のブログにも来て下さい!
「ヴィオーラ」って言うブログです。
Posted by おゆり at 2009年04月01日 20:58
綾さん。

ね、安堂くん、よかったでしょ。
安堂くんはもう、イケメン男子のニュースタンダードですよ。でも、作中だとルックス的には蓮のがイケてるんですけどね。蓮も蓮で、ものすごく誠実でまいってしまいます。
駅のシーンの仁菜子もよかったですね。
二度と会えないわけでもないのに、いつも会えないことが寂しくて、つらい。
恋にかぎらず、感情って、そういうのあります。


おゆりさん、どうもコメントありがとうございます。

蓮くんもせつないですね。
安堂くんも仁菜子も含めて、基本的に、このマンガって出てくる人物がみんな、ちゃんと一生懸命で誠実なんですよね。
こういうふうに人は生きられるのかもしれない、こういうふうに人を想えるのかもしれない、と思えることが、たとえファンタジーだとしても実感として得られるのが、このマンガのいちばん大好きなところです。
ところでブログのアドレス教えていただけるとありがたかったのでした。
Posted by もりた at 2009年04月01日 21:25
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