ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2006年01月10日
 『すばる』2月号掲載の短編。もう何度も同じことをいっている気がするが、このごろ生田紗代がいい、のである。これが褒め言葉になるかどうか知らないけれども、まちがいなくポスト角田光代の最右翼だろう、と思う。さて『雲をつくる』である。〈私〉は、風邪で寝込んでいる受験生の弟のために、とはいっても、母親に無理強いされたからなのだが、大学を休んで、家電量販店に行き、加湿器を買ってくる。昼食にサンドウィッチも作ってやる。しかし弟の熱は下がらず、むしろ上がる一方で、午後になり、仕方がなく、近所の病院へ、父親の車を運転して、連れて行くことにした。弟が、念のためということで点滴を打ってもらっている最中に、ふと〈私〉は、自分が苦手な人たちのことを考えていた。彼らは一様に、男と女の違いに、こだわるタイプだった。ところで生田という作家に、じっさいに弟がいるのかどうか興味はないが、姉と弟のあいだにある距離感に、じつに雰囲気があり、そのやり取りをイメージすると、なんだか、すこし、ニヤニヤとしてしまう、そのことで、やわらかなトーンが、文章のうちに、芽生える、取っ付きにくさが軽減されるのである。たしか、ここでは触れなかったと思うが、以前どっかで読んだ、眼鏡の話の姉弟もよかった。それはそれとして。短い話なので、逆に、要点を引くのが難しいが、〈私〉が次のように内省する、〈私の意識から成り立つ世界と、そうではない世界。その二つは、完全とまではいかなくても、大部分は一致するものだと思い込んでいた〉という部分が、ひとつ、キーなのだろう。これは、人と人は絶対に解り合えない、という断絶線のように、くっきりと浮かび上がった思考ではなくて、ぼんやりとした思いつきに似ている。そうしたギャップの明瞭ではないことが、ある場合には、登場人物の行動を束縛する。もちろん、その束縛自体も、原因と結果の名指せないことから、不明瞭であるがゆえに、ただ溜め息程度の、たあいのない孤独を描くに過ぎない。しかし、そのたあいのなさが、なぜか引っ掛かるのだ。なぜだろう。と、曖昧な輪郭の疑問に、手を伸ばしては、さっと引っ込めてしまう、この小説自体が、まるでそういう所作のように思える。そして、それはある意味で、生田のこれまで書いてきた作品の多くに内包されているものだともいえる。

・その他生田紗代に関する文章
 「なすがままに」について→こちら
 「まぼろし」について→こちら
 「タイムカプセル」について→こちら
 「十八階ヴィジョン」について→こちら
 「ぬかるみに注意」について→こちら
posted by もりた | Comment(2) | TrackBack(0) | 読書(06年)
この記事へのコメント
生田紗代さん頑張ってますね!!
あまり「オアシス」、「タイムカプセル」、
「まぼろし」以外に単行本を見たこと
ありませんが、他にはないんでしょうか?
結構文芸誌には書かれているような気が
しますが。
今度はデビュー雑誌でもある「文藝」で
書いて欲しいです。
それにしてもいつも思いますがすごい
読書量ですね〜。
僕もそのぐらい読みたいのですが…。
最近読んだものでは「文藝春季号」の
伊藤たかみさんの「ドライブイン蒲生」が
面白かったです!!
伊藤さん、芥川賞残念でした…。
次回に期待します。
Posted by 誠 at 2006年01月21日 00:13
誠さん、どうもです。
今のところ出てる単行本はその三冊だけですね。
そういえば、生田紗代は「文藝」で見かけないかもしれませんね。言われて気づきました。
Posted by もりた at 2006年01月21日 12:43
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