ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2009年02月27日
 山口いづみの『ハルフウェイ』は、脚本家である北川悦吏子が監督をつとめた映画のコミカライズを表題に置いているが、じつはそのほかにも二篇、オリジナルの読み切りを収めており、基本的には、あたらしめの作者を知れる短篇集として読まれたい内容になっている、とはいえ、やはり何よりもまず、「ハルフウェイ」(と、その番外編である「〜だけど、それはまだ物語の途中〜」)に触れておきたくなるのは、それがいちばん最近に描かれたものだからである。正直、原作に関して詳しい情報を持ってはいないままに読んだのだけれども、いや、これはとても素直に、うつくしくやさしい作品だね、と感じられた。話の筋自体は、きわめてシンプルで、北海道の、高校生のカップルの恋愛を、男の子のほうが大学進学のため東京に出て行かなければならないので、地元に残る女の子のほうは離ればなれになってしまうことに脅えるという、ちいさくちいさな関係性のなかに捉まえている。日常に含まれる何かが、具体的に、変化し、終わらざるをえない様子が、ドラマティックに物語化されているのではなく、日常そのものが、つねにゆるやかな変化をともない、そうして進んでゆかざるをえない様子の、スタティックな叙情を、以前よりもあきらかに繊細さを増した山口の筆致が、できうるかぎりこぼれぬよう、丁寧にすくいとっているみたいだ。あとがき的な弁によると、北川からのアドヴァイス(でいいんだよね)もあったらしいが、コマの一つ一つや、表情の一つ一つに、ここまでやってきた作者の、現在の実力がよく示されていると思う。概要において、男の子はとくに目的もなく上京を指向し、女の子はまったりと地元を指向するのはどうして、的な見方もできなくないけれど、それは映画版と社会学的な批評に任せておきたい。とにかく、すべて他愛もないからこそ、敏感な震えの何よりもおおきいことに、作品のすぐれた部分は預けられているのである。「ハルフウェイ」以外の篇、「今日だけのアンリアル」は、若い女性同士の、友情ともつかない繋がり、自意識のあふれるさまを描いていて、いくらか『NANA』を思わせるところもあり、いくらかいくえみ綾のようでもあり、ストーリーについても、ありふれたアイディアを脱しえないが、ささやかな記憶でしかないことがどうしてこうも尊いのか、その触感のたしかさに胸動かされるものがあって、不覚にも泣けてきてしまった、という意味で、好き。一方、「星は日が暮れるまで眠る」は、ふいに再会した幼馴染みの男女が、セックス(性交)を通じ、あらためて恋愛の間柄に入っていくという内容で、決して暗くも後ろめたくもない題材に、不思議とせつない印象を与えている。そしてそれが翻り次第、どこかあたたかな温度に変わる。

・その他山口いづみに関する文章
 『アカンサス』
  2巻について→こちら
  1巻について→こちら
 『キリン』について→こちら
 『恋愛幸福論』について→こちら
 『HAPPY DAYS』と『ビターチョコレイト』について→こちら
 『ロマンチストベイビー』について→こちら
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ(09年)
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