ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2009年02月22日
 仁義S 9 (ヤングチャンピオンコミックス)

 まさか、ということもあるまいが、しかしまさか、横山が復帰、柳澤込みで、関東一円会が再編されることになろうとはな。それがはたしていったい、あらかじめ用意された筋書きどおりなのか、あるいは土壇場の思いつきにすぎないのか、作者の思惑について、読み手は推し量るしかないのだけれども、結果として、物語の背景に置かれた関東一円会と獄地天道会の対立という構図に、ふたたびの弾みがついている。ここにきてもまだ、盤面をおおきく揺るがし、動かすとは、あいかわらず予断を許さないねえ、といった感じの、立原あゆみ、『仁義S(じんぎたち)』の9巻である。いや、今までの流れからするに、もうしばらくは柳澤を仮想敵に置いたまま、アキラと大内の主人公コンビによる追撃を描いてくれてもよかった。柳澤の陰謀を、もしもそれが墨田川に仇なすつもりであるなら、突き詰め、打破することで、二人の、とくにアキラの、組織内の株はあがり、ひいては仁と義郎の、つまり今はビッグ・ネームとなった前作『JINGI』の主人公たちの、次の「仁義たち」としての資格を十分に得ることもできたろう。だが、関東一円会が、柳澤の目論見とはべつのところで、二つに割れ、再編されたため、事態は一転し、彼らは目下の事件から、あらたな局面に駆り出されることになる、さらなる火種を抱えてゆくことになるのである。それにしても、大内の役は、見事なぐらい、かつての義郎をなぞらえている。元極左のエリート・テロリストであった義郎と、無所属の天才ドクターである大内とでは、たしかにインテリだとの共通項を持ってはいるが、当然のごとく能力のありようが違う、いやむしろ、前者は暗殺に長け、後者は救命に長けている以上、対極だとさえいえるし、そもそも極道を選びとった目的も異なる。にもかかわらず、株で儲けた金を、パートナーの成り上がりにつぎ込む、賭けるといった奉仕のスタンスで、だぶっている。これをアイディアの使い回し、二番煎じと判じることはできる。けれども、革命の分野であれ、医療の分野であれ、システムが完全な拝金主義に陥ってしまい、本質の見失われたことを憂い、自らドロップ・アウトした人間が、金銭には換えられないものを信じて命すら惜しまぬ人間に出会い、ヤクザの抗争に身を費やしていくことが、投資の行為によって担われているのは、資本制の徹底された世界に対する一種の復讐であると見られたい。バブル経済の余波を受け、小国の国家予算に匹敵する額を叩き出した義郎にくらべたら、そりゃあ今日の不況にあたってしまった大内の儲けは、ややスケールが落ちるとはいえ、それでも億単位で好きに動かせるだけの余裕を稼いでいる。だが、義郎や大内が欲に目をくらますことはない。なぜならば彼らにとって、金には金以上の価値はなく、それ以上の価値を知るべく、存在する手段にほかならないからだ。これから行く道で、もしも金が障壁になることがあるなら、先に除けておきたいだけの話にすぎない。仁をガードするアキラを見、大内は〈今 見送っている男を見送られる男にする 登った先に何があるのか?〉と思う。義郎と仁の関係がそうであったように、大内もまた、アキラの躍進に、いまだあらわれたことのない世界の実現を託しているのである。〈ヤクザはみんなゲイだろ〉という大内の言葉は、たんなる自嘲ではない。むろん、真に同性愛だというのでもない。おそらくは、野郎が野郎の生き様に信頼を預けるような意気を指している。一方、所属は違えども、同じチンピラとして和気あいあいとしていたアキラ、守(もり)、大介(大ちゃん)の、三人の友情とバランスは、それぞれの立場があがるにつれ、微妙になっていく。はからずも甲田の殺害に関与してしまった守に、アキラは、真犯人の捜索を、厳しく、強いる。守の命を思えばこその仕打ちなのだけれど、事情は複雑に絡み、もはや以前みたいに腹を割って話すことはできない。これがのちに遺恨を残すことになる。この作者のマンガにおいて、守のような、小悪党めいた人物の恨みは、しばしば重要なキーとなりうる。穏便な大介の〈アキラの気持ちが守に伝わるか どうか?〉という懸念は、すでに悪い予感を孕んでいるのである。ところで、だ。今後、関東一円会と獄地天道会とが、本格的に臨戦態勢に入るのだとしたら、あんがい、同一の世界観をシェアする立原作品のなかでも獄地天道会ともっとも関わりの深い『本気!』の物語から、本気(まじ)あるいは風岡の登場があるかもしれない。さすがに仁や義郎が、それらの人物と直接相対することはないだろうが、アキラか大内のいずれ、さもなくば関東一円会のトップに立った横山との対面は、決してありえなくない。

 8巻について→こちら
 7巻について→こちら
 6巻について→こちら
 5巻について→こちら
 4巻について→こちら 
 3巻について→こちら
  
・その他立原あゆみに関する文章
 『本気![文庫版]』
  6巻について→こちら
  5巻について→こちら
  4巻について→こちら
  3巻について→こちら
  1・2巻について→こちら
 『極道の食卓』
  7巻について→こちら
  6巻について→こちら
  5巻について→こちら
  4巻について→こちら
  3巻について→こちら
  2巻について→こちら
  1巻について→こちら
 『恋愛』
  3巻について→こちら
  2巻について→こちら
  1巻について→こちら
 『ポリ公』
  4巻について→こちら
  2巻について→こちら
 『月の教室』について→こちら
 『喰人』1巻について→こちら
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ(09年)
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