ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2009年02月20日
 そう、たとえば、こういうナイーヴなポエジー、イズムからも、『特攻の拓』の残響を聞きとることができる。〈ホントに世界は逆様に出来てやがんよ? 夏ゥ… / 平和を謳って兵器を量産し / 利益の為に世界中に戦火を撒き散らす / 愛されている事を利用して / 誰かを有罪にする事で正義を量産している / 強いものは“強い事”を平然と遣って蹂躙してゆき… / 弱いものは“弱い事”を当然と盾に被害者に擦り変わる… / 愛や心を嘲笑うもの達が権威や収益を崇めてる / 無い価値を信じ込まされた弱きもの達の破綻が世界を瓦解させ… / 自国の価値を信ずる事が出来ぬ強きもの達の判定が人々の豊かさを崩壊させてゆく…〉という、このような残念は、あきらかに天羽時貞のそれを引き継いでおり、佐木飛朗斗が原作を提供する諸作品のなかで、通底音として存在する、もしくは存在し続けるうち、あらためられた変奏にほかならない。生まれや育ちを一種の呪いとして見、世界レベルの不幸と結びつける感受性は、サブ・カルチャー的な想像力において、決して特殊なものではない。むしろ普遍的だとさえいえる。誰しもが戦って死ななければならないとしたら、それは世界によって定められているからなのである。すくなくともそう信じられていることが自然であるような、そういう戦いに対し、はたしてピリオドを打つことは可能か。『外天の夏』が描こうとすること、主人公の天外夏が、死んだ兄から託されているのは、おそらく、そのテーマだろう。物語が3巻に入って、いよいよ夏は、兄がはじめた族(ゾク、チーム)である“外天”の集会に合流することとなる。しかし同じ夜、間宮龍人率いる“泥眼”が、百瀬の“朧童幽霊”に向けた敵意を宣誓し、“魍魎”の和國も戦争の構えをみせるのであった。よもや全勢力の衝突は必至、という事態に巻き込まれた夏が、いかなる活躍を、いかなる役割を果たすのか、いっさいの焦点は、そこへ絞られてゆくのだと思われる。それにしても、これ、ぜんぶ、たった一日の出来事なんだぜ、ありえねえよな、というぐらい、現段階ですでに、作中時間の量は、無尽に膨れあがっている。だが、そのことはもしかすると、登場人物の雑多さも含め、ドストエフスキーの『罪と罰』や埴谷雄高の『死霊』のような文学作品の、狭い物語内における複雑な思弁性を同例にして捉まえられる。としておきたい。じっさいにマンガをつくっている東直輝や、佐木のデザインが間抜けなのではなく、血まみれの諍いも含め、さまざまな思考や対話が、形而上を目指し、奔放に繰り広げられているのである。たしかに、目に見えずとも信じられるものは、ある。としても結局のところそれは、目に見えるかたちを通してでしか、認識されない。このことが真であるのかどうか、バイクや音楽、ダイヤモンドや宗教のもたらす熱狂は、それを問うている。ここに描かれている少年や少女たちが、過酷に生きなければならないのは、ありとあらゆる価値基準が、恒常性のないまま、とっくに頼りなくなってしまっていると、察知しているため、に違いない。たぶん、少女たちにとって、大人が用意した規則や男性のマッチョイズムは、もはやおそれるものではない。安い女子高生はレディース(女性暴走族)をDQNとあざ笑い、レディースは女子高生をウリモンと罵り、合い、同性同世代のなかで、せめて自分のポジションをキープしようとする。元セレブ・ギャルズとゴシック・ロリータの姉妹は解り合えない。ネガティヴな反動のみが、自己を体感させる。少年たちが、暴走と暴力を用い、実現せんとするのも、それと等しいベクトルにほかならない。舐められたらお終い、というと不良くさいけれども、優劣の曖昧なカテゴリー間のせこい対立は、現代においてシリアスな問題となりうる。それぞれがそれぞれのカリスマを立て、群雄割拠する動向をよそに、平凡な立ち振る舞いの夏を主人公たらしめているのは、彼のきわめて中庸な姿勢であるのかもしれない。夏は、現在の“外天”のアタマ、すなわちヘッドでありトップであり、リーダーである伊織の微笑む姿に〈そうやって笑うと…特攻服が全然似合わない… / 出会った頃と変わらない伊織くんなのに…〉と思う。そうした無邪気さのみが、とても手に入れにくいので、争わなければならないとしたら、何とも悲しいことだ。

 2巻について→こちら
 1巻について→こちら

・その他佐木飛朗斗に関する文章
 『爆麗音』(漫画・山田秋太郎)
  3巻について→こちら  
  1巻・2巻について→こちら
 『パッサカリア[Op.7]』(漫画・山田秋太郎)について→こちら
 『[R-16]』(漫画・桑原真也)12巻について→こちら
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ(09年)
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