
可愛らしいファッションに身を包んだ少女は、自らを大魔王だと言い、もしも地球に存続するだけの価値がないのなら、破壊してしまおうと告げる。人類は知らずのうち、わずか二年の猶予を突きつけられる。その間、たった一人だけ真実を知ってしまった平凡な主人公が、彼女の気を変えることができなければ、まさしく世界は終わる。酒井まゆの『MOMO』は、ストーリーのラインを取り出すなら、わりと青少年向けのマンガやライトノベルのフィクションに近似な内容であるけれども、矮小な身に巨大な運命を背負ってしまった主人公が、ひねた坊ちゃんなどではなくて、前向きな決断力と行動力を持った女子高生であるところに、なるほど、現代的な少女マンガらしいデザインが宿っているし、作者のセンスがよく出ている。また、そのことは作品の構造自体にも関与していて、1巻を読むかぎり、照れ隠しのボーイ・ミーツ・ガール譚が目指されている印象ではなく、あくまでも素直にロマンティックなファンタジーとしての成果を上げているのだった。不幸に次ぐ不幸に見舞われ、〈誕生日なのに やっぱりいいことなんかひとつもない こんな世界 今からでも遅くないから 終わっちゃえば いい――――――…〉と願っていたヒロインの夢だったが、しかしたまたまのことから、地球の破滅を左右する代表者にされてしまい、大魔王であるモモを〈この星のすべてを使って7度喜ばせ〉なければならなくなる。こうした理不尽さに対し、確たる使命感をもって応えようとするのである。見逃してならないのは、人類に与えられた二年というリミットが、16歳になったばかりの夢にとって、18歳になるまでの歳月と等しいことだろう。それはすなわち、一人の学生が成長して、大人になっていく過程を、含んでいる。この点を見るなら、基本線は、入学から卒業までのあいだをとった学園ドラマ形式の変奏にほかならない。そのなかで、世界の終わりをダシにして描かれていることの本質は、誰しもがどこかで乗り越えてゆかねばならない自立のテーマ、なのだと思う。
・その他酒井まゆに関する文章
『ロッキン★ヘブン』
8巻について→こちら
7巻について→こちら
6巻について→こちら
4巻について→こちら
3巻について→こちら
2巻について→こちら
1巻について→こちら