ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2006年01月06日
 はなうた日和

 山本幸久のものははじめて読んだ。きっかけは、この作家のことを、けっこうあちこちで北上次郎が褒めていたからである。たいがい他人が褒めているものは貶したがりになる、いやなタイプの読み手である僕だが、あ、これは、よかった、へえ、と思う。ぜんぶで8編、世田谷線沿線を舞台にした、短い、小品と呼べるようなお話が並んでいる、それらは薄く浅く連関している、年齢はさまざまな、市井の人たちの、何気ない、日常のワン・シーンを切り取ったものである。泣ける、という深い感動ではなくて、ほっとして溜め息をつくような、そういう快い情景を、活字のなかでのやりとりが、想起させる。そうね、今日は『はなうた日和』だった、そんな感じのハッピー・エンド群たち。たしか書評などで北上は、「意外な兄弟」における、まずいカツカレーを出す喫茶店の場面をピックアップしていた気がするが、なるほど、というか、この人は、料理の、その背景にある生活感を物語へ組み込むことが巧いのかもしれない。たとえば「犬が笑う」での、ひとりの女性が、一人分のカツ煮を作るところ、あそこでの孤独が寂しすぎずに書かれている、そういう自然な進行がよろしい。だからラストで開くドアを過剰にドラマティカルにしない、控えめに上昇の機運がやってきたものとして、こちらは受け入れるだけである。押しつけがましくないのだ。また一方で料理は、幸せ家族のイメージだろう。「五歳と十ヶ月」で、その欠損は、トンカツを揚げる油の音程度の飛沫として、ささやかに、はねる。夢想は、いつだって心地よく、かなしい。個人的には、無気力な青年が主人公のエピソード「コーヒーブレイク」が、いちばん感情移入しやすいのだった。そこで主人公が出会う、千倉さんの人となりが、なんともいえず、ムズムズとする。千倉さん、最後の「うぐいす」にも登場するけれど、抜けているが、あんがい良い人である。
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(06年)
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