ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2008年11月16日
 中間淳生の『夜明け前』は、性同一性障害を取材し、たいへんシリアスに描く内容のマンガだけれども、作品が感動的なのは決して、扱われているテーマのためではない。これを勘違いしてはならない。そのことはたとえば第一話の、あ、とさせられる仕掛けからしてあきらかである。あまり触れるとネタを割ってしまいかねないが、ある意味で叙述トリックといってもいいだろうね、式の展開を用い、なぜ主人公の片想いが挫けなければならなかったのか、を秀逸に表現している。それを通じ、外見と内面の性が一致していない人物の戸惑いを、たんに興味深い症例を眺めるような好奇心から、見事に離陸させており、その後に続く物語を、特別な世界の出来事ではなくしている。だからこそ読みながら、胸が詰まる。もちろん、マイノリティに向けられる厳しい視線にさらされ、苦しみ、耐え、それでも顔を伏せまいとする主人公の姿には、ヘヴィであり、ハードなものが付きまとっているわけだけれども、やや反動的な言い方をすれば、この『夜明け前』を読んで、心を動かされたからといって、とくに性同一性障害に対する関心を持たなくても良いように思う。そうではなくて、ただ、現実はつねに残酷な面を持っていて、押しつけ、深い傷を負わせてくることもありうる、が、しかしときにやさしく肩を貸し、傷をかばってくれるような面だって持ち合わせているのかもしれない、こうした可能性が誰の身近にもあり、そして誰しもがその可能性の一部であることを再確認できればいい。それだけの力がここにはある。
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ(08年)
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