ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2005年12月22日
 蒼太の包丁 9 (9)

 テレビ・ドラマの企画をやっている人ははやく発見してください、というぐらいに、とてもとても、こう、身につまされながら、ぐっとくる話の詰め込まれた『蒼太の包丁』なわけだけれども、もちろん、この9巻目もナイス・ストーリー・テリングであった。僕は、料理マンガの本質は、いかにしてディシプリンを捉まえるかにある、と考えているのだが、さまざまな人々との接触を通じて、着実にその器量を養っていく蒼太の姿には、利己的なガンバリズムを越えた、奉仕することの是を推進力としながら、公の役割を引き受けて立つ、そういう真摯な姿形を見て取るのだった。今回の収録内容でいえば、本マグロの「テンパ」に関するエピソードが肝だろう。テンパとは、皮ではなくて、中骨から削いだ中落ちのことである。それが極上に美味いらしい。そのことに端を発した諍いに巻き込まれてしまった蒼太は、自分の接客のいたらなさに気を滅入らせる。〈いくら料理が出来たってお客様に気持ちよく過ごしていただかなきゃ意味がない・・・〉と思う。はたしてトラブルの原因となったテンパの味わいとはいかほどのものなのだろうか。築地市場で働く風間が、蒼太の景気を回復させることを思案して、それを用意する。ここで風間が、蒼太を落ち込ませた食通のテレビ局プロデューサーにかける言葉が、いい。〈不用意に若い人を傷つけることがあっちゃいけない それが見過ごせなかったんだ〉。テンパの味に説得されたプロデューサーは、反省とともに、首肯する。〈上質の客こそが最高の料理人を育てるんだな……歳かな 頭が固くなってたようだ〉。やや性善説的な着地点ではあるけれども、舞台となっている料亭「富み久」が、その店の在り方からして、俗悪を拒否した空間であるために、説得力の損なわれることがない。マンガ内の装置がうまく機能しているというわけだ。かくして蒼太は、人として、料理人として、また一回り大きく成長することとなる。しかし、修行の道はまだまだ、長く、けわしく続いてゆくようであった。また、これまでには穏当であった恋愛模様の部分も、微妙に変化してくるあたりも、この巻の見所である。

 8巻についての文章→こちら
 7巻についての文章→こちら
 6巻についての文章→こちら
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ。
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのTrackBack URL
http://blog.seesaa.jp/tb/10938680