ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2008年11月06日
 Classical Fantasy Within 第五話 アル・ヴァジャイヴ戦記 ヒュッレム姫の救出 (講談社BOX)

 うひゃあ、話を追うのが楽しくなる一方だな、これは。古代中東(オリエント)編に入ってからのくだりは、ひたすらわくわくさせられる展開が次ぐに次ぐ。島田荘司の『Classical Fantasy Within 第五話 アル・ヴァジャイヴ戦記 ヒュッレム姫の救出』であるが、かつては栄華をきわめたサラディーンの街を救うべく、苛酷な使命を帯び、出立した千人の精鋭たちは、のっけから獰猛な小型竜に襲われ、主人公のマスードとわずかの兵士を残し、よもや壊滅の憂き目に遭う。しかしそれでも任務は果たされなければならない。アッシームの蛮族の強襲をくぐり抜け、なんとか第一の砦であるブーシェフルで、これから先で必須となるらしい「ポルタトーリの箱」を受けとった一行は、第二の砦ガズビーンを目指し、自らのまたがる馬を走らせる。ブーシェフルで得た手がかりによれば、ガズビーンで「聖なる槍」を手に入れることが必要となる、そのさい、あらたに請け負うことになるのが、すなわち題に示されている「ヒュッレム姫の救出」である。たった十四騎で十万もの兵士を向こうに回し、囚われている人間をどうやって助け出そうというのか、この無謀ともいえるトライアルが、知能的な攻略に置き換えられ、繰り広げられる。そもそも登場人物たち、とくにマスードの肉体面におけるポテンシャルは、ずば抜けて高く設定されている。これに対し、とんでもないサイズの驚異がぶつけられ、見舞われた絶体絶命のピンチを冷静な判断力で対処し、回避し、打開していく、こうした語り口のあたりに絶妙なスリルが生まれている。男性ばかりのパーティに女性が加わってきたり、誰しもが予想していたようにあの人物があれだったなど、お約束をめいっぱいに詰め込みながら、いっさいが伏線に見えて仕方がないのも、意識的な細工だろう。ロール・プレイング・ゲーム(RPG)を思わせる世界観は、文字どおり、伝説にそった役割を演じること(ロール・プレイ)を主人公たちに課す。詳細な説明とともに「ポルタトーリの箱」の中身がイラストによって可視化されていたり、いくつかの仕組みが具体的に描写されればされるだけ、それらの作用が、あらかじめ予言された筋書きをなぞらえる運命の数々に、いかなる結末をもたらすのか、謎は深まるばかりだから、油断ならない。いや、たしかに作者は『パンドラ』VOL.2 SIDE-Aに掲載されているインタビューで、「アル・ヴァジャイヴ戦記」パートの執筆にあたり〈私自身計算していない予想外の展開も現れて、さまざまな事物や風景を見ました。その都度、これでいいのかな、いいのかな、と不安にもなる。こんな変なもの、書いてもいいのかなと。「ええいかまうものか、そのまま書いちゃえ」と思って、そして通り過ぎて振り返れば、それなりに辻褄が合っていて、「あ、なんだ、よかったのか」と思ってね〉と述べているが、作品の強度、奥行きのあるつくりを支え、興奮を育んでいるのは、まちがいなく、構成の緊密な雰囲気であると思う。

 『Classical Fantasy Within 第四話 アル・ヴァジャイヴ戦記 決死の千騎行』について→こちら
 『Classical Fantasy Within 第三話 火を噴く龍』について→こちら 
 『Classical Fantasy Within 第二話 怪力光線砲』について→こちら
 『Classical Fantasy Within 第一話 ロケット戦闘機「秋水」』について→こちら
posted by もりた | Comment(2) | TrackBack(0) | 読書(08年)
この記事へのコメント
商業的には、この島田さんのシリーズ全然売れてないと思いますが、なんだかとんでもなく面白いです。

不可能なミッション(まさしくミッションインポシブル)を、知恵と勇気で可能にしてゆく、わくわくさ加減が最高です。

姫君も踊り子もやたら気がつよくて、さばくのに難渋しているのが、島田さんらしくてご愛敬です。
Posted by 異邦の騎士 at 2008年11月09日 18:35
異邦の騎士さん、コメントありがとうございます。

(他の作品に比べてだと思うのですが)このシリーズ、売れてないんですか。たしかにあまり話題になってる感じはしませんね。個人的には第二次世界大戦を舞台にした第一部よりも「アル・ヴァジャイヴ戦記」のほうが、冒険活劇的なストーリーが爽快であるし、掴みとしては良かったんでは、と思ったのですけれども、そのへんの構成も全部が完結したとき、何か意味を持つのかなと期待しております。
Posted by もりた at 2008年11月11日 15:23
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバック