ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2008年09月17日
 20世紀の幽霊たち (小学館文庫 ヒ 1-2)

 序文を引き受けているクリストファー・ゴールデンが〈「ポップ・アート」は至高の域に達するとびきりの大傑作だ〉と力を入れていて、まあ、こういうのは話半分に聞いておくべきだよね、と思っていたのだが、いやいや、じっさいに「ポップ・アート」を読んでみたら、だ。見事にはまった。語り手が友人のことを〈つまり、ヘブライ系の空気人形だった〉とかいっても、どこが「つまり」で「ヘブライ系の空気人形」ってのが何だかわからねえぜ、と独りごちつつページをめくっているうち、孤独な少年たちの友情が思いがけずせつない別れを描く瞬間に立ち会い、胸締めつけられた。これはやばいぞ、と驚く。しかし魅力的なのは「ポップ・アート」ばかりではない。ジョー・ヒルの短篇集『20世紀の幽霊たち』に収められている、その他の作品もえらいことになっている。アタマの「年間ホラー傑作選」を筆頭に、個人的な好みを含めていえば、表題作にあたる「二十世紀の幽霊」や「アブラハムの息子たち」、「うちよりここのほうが」に「黒電話」、「挟殺」、「おとうさんの仮面」、「自発的入院」あたりは、かなりのものである。なんで訳者(安野玲)は訛りの箇所を関西弁ふうにしちゃったのか、そこが白けただけで「寡婦の朝食」も良い。要するに、大多数を気に入ったのだった。もちろん、ジャンルにしたらホラーの系に名を連ねる作家であるから、グロテスクでおっかない描写もあるにはあるし、ぞくりと背中を刺す感覚にもあふれている。だが、ときにそれをしのぐ抒情が、素朴にもやわらかく、散り散りになりそうな痛みを引き寄せる。アイロニカルな微悲劇のなか、作中人物たちはつまずき、つまずきを取り戻そうとするけれども、わずかに手遅れてしまっている。その、わずかだが致命的な境目から、人生の影を踏んで成り立つ郷愁がこぼれてくるのである。死んでしまった人間を愛し続けても生き返ることがないように、過ぎ去ってしまった日々は振り向き懐かしんでも立ち返れない。失われてしまうことの奥底には恐怖が潜んでいる、いや、だからこその重みを持ちうる。この重みを秘めることで、ある種の幻想は生々しく、美しい輝きすら放ちはじめる。『20世紀の幽霊たち』のいくつかは、正しくそうした彩りの小説化だといえる。

 『ハートシェイプト・ボックス』について→こちら


posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(08年)
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